毛皮のご自宅保管での注意点

今日は、そろそろクリーニングや保管の時期になってきましたので、一般の方が簡単に保管ができる方法や気を付けなければいけないこと、さらに一般の業者も気が付かないことなども含めて書いてみます、、、と実は五月くらいに書き始めたのですが、忙しくて、こんな時期になってしまいました。すみません。

でも、真夏になってますが、今からでも試してみる価値はあります。是非読んでみて、やれることだけでもやってみてください。やらないよりは絶対に毛皮にとって良いはずです。

業者さんがやってることは私は正確には知りませんが、想像はできます。

クリーニング後にどういった状態で保管するか、そして納品直前に何をするのかが問題なのですが、完璧な解決方法がないのが正直なところです。

一番良いのは、コート一点を何にも近づけずに温度の高くならない暗い場所で保管するのが一番です。しかし現実には保管を仕事としてやる場合には大量のコートを一か所でお預かりするわけですから、コート同士がほぼ、軽く接触状態になるのは普通のことです。

ご自宅の場合であれば、例えばクローゼットがあったとしても、毛皮のコート同士、または他の洋服とピッタリに接触してしまっていては、いろんなリスクが発生いたします。

まずは、クローゼットで例えば湿度や温度が調整できる環境であっても、クローゼットが空の状態であれば全体に温度や湿度管理がいきわたりますが、ものが入ってしまうと空調の対流が妨げられて湿気が溜まってしまう場所が発生します。

例えば、コートを向かって左向きにハンガーで掛けた場合には右袖が奥側になり右袖に湿気が溜まります。私が、過去にやったリフォームの中に、右袖だけが極端に劣化しているコートが三点ほどありました。すべてミンクです。ミンクは毛皮素材のなかでも特に強いほうの素材ですが、劣化していました。

この事象からもハンガーに掛けた方向とラックに入れる向きにもよりますが、どんなに環境を良くしたとしても、壁際だったりする端になる部分は湿気が溜まりやすく、空調設備があるクローゼットのようなスペースでも絶対に安心とは言えないということです。

解決方法としては、クローゼットの環境をよくするよりも、コートのかける向きを夏場の時期に最低一度は変えて、湿気が溜まった奥側にある袖の方を手前にしてあげて、新しい空気に触れさせて湿気を取ることをお勧めいたします。

それと、夏場のオフシーズン中に、何度かハンガーラックのようなものに間隔を開けてコートを一度裏返しにして 暗い場所に数日置いて、裏側に溜まった湿気を取り除くことをお勧めします。

これくらいやっていれば、そう簡単には皮の劣化はしません。一般的に、よくみるリフォーム品の極端な劣化は、超最悪の環境に長期継続して保管してしまったことによるものが多いと私は考えます。

よく、以前クリーニングに出して、その後何十年もしまったままだったというようなケースがありますが、たまたま保管した場所の状態が湿度や温度の高い場所に長期間保管したケースが多く、しかも着ないために、どうしても保管場所が奥の奥にいってしまい、環境としては一番最悪の場所になったことも原因のひとつです。

普通に扱えば毛皮はそんなに簡単には悪くなりません。それは、私の手持ちの在庫や仕掛り品在庫をみても、何十年も経った仕掛り品がありますが、劣化などしません。

たまにチンチラが劣化している場合がありますが、これは買った時からすでに劣化が始まっていたようなチンチラ原皮がありますが、それにしても、過去35年くらいの間で数枚のことです。

意外に怖いと私が想像するのは、メーカーや小売店のバックヤードに長期保管されてしまっているようなコートや小物は怖いと感じます。

その原因のひとつは、一か所に継続して長期保管をした場合には、どんなに空調があっても行き届かない場所がたくさんでますので、かなり危険だと感じます。

保管を業務としているところでも問題を抱えているはずです。ただ、現状の保管の方法しかすべがなく、クリーニングに出したものを保管する場合は特にそうですが、コートは完全に綺麗になったという前提がありますから、例えば不織布のようなコートカバーに入れて納品まで保管することになります。

しかし、洋服のように完全に汚れが落ちた訳ではありません。毛皮の皮についた虫やカビは一般のクリーニングでは落ちませんから、仮にいい状態のコートの隣にクリーニングを完了しているといっても、皮にダニやカビが付いたコートを密着状態で保管したら、当然ですが、隣にも匂いやカビ、虫が移るリスクは通常以上にあります。自宅保管よりリスクが高くなるのです。

燻蒸処理するという話も聞きますが、毛皮の一番怖い部分が裏地、さらには芯の奥にある皮の部分であり、そこに匂いやカビ、虫などがいるので、燻蒸がどこまで効果があるかは分かりません。仮に害虫や菌が死んだとしても匂いは残るような気もします。燻蒸ですべてのリスクがなくなるというのは無理があるかなと、私は感じます。

 

話戻しますが、保管をする際に不織布のカバーのようなもので保管し、他のコートと密着状態になれば、綺麗なほぼ新品の状態のコートに隣の古いコートから匂い、カビ、虫等が移る可能性があるのです。普通の洋服のように完全に汚れが落ちた状態でビニールカバーにかかったものが隣り合わせになるのは問題はありませんが、毛皮の場合、裏地が付いた状態での完璧なクリーニングはあり得ませんので、都度リスクが発生いたします。

クリーニングに出したはずが、逆に、保管や作業中のコート同士の接触によって匂いやカビが移る可能性があるという矛盾した問題がつきまといます。

私のところでも、この部分には一番神経を使います。

最初のご自宅での保管の話にもどしますが、上に書いたことを気を付けて頂けば、そう簡単に皮が劣化したりしません。劣化するまでには、そうとう無意識に酷い環境で保管しないと簡単に皮が劣化したりはしません。室内温度が超熱い場所やクローゼット、場合によっては桐箱なんかに入れっぱなしにした状態を何年も続けている場合です。

桐の箱が良いなんてよく言われますが、確かに虫よけにはなるのかもしれませんが、湿気を吸った毛皮を何年も入れっぱなしにしてはいけません。昔のストールを桐箱に入れてダメになったのを何度も見ています。

桐ダンスに入れて保管する呉服については私は分かりませんが、毛皮の皮は生き物のように湿気をすったり出したりしています。その湿気の逃げ道を無くしてしまった状態で長期保管などあり得ないのです。

毛皮で一番のリスクは皮にあります。毛は虫に食われたりもあるかもしれませんが、コート全体がダメになることはありません。皮が劣化したら、毛皮コートとしては価値が無くなります。

極端に心配する必要はないですが、せめて、上に私が書いたことを毎年守っていただければ自宅保管もありだと考えています。

とにかく大切にクローゼットでも洋服ダンスでも、奥の奥に何年もしまったままはやめてください。

 

私も、これだけ長い間、扱っていても明快にこれだというものが見つかりませんので、責任は持てませんが、上で書いたことをやらないよりはやった方が確実にコートの寿命を延ばすことは出来ます。

業者さんも、これが絶対だとは思ってないはずです。思ってるんだとしたら、知らないことが多すぎるのだろうなと推察できます。

昔、脱酸素剤を入れてビニールのパッケージで空気を抜いた状態で保管するものがありましたが、あれも問題が多いですね。だって脱酸素といっても、毛皮のコートから完全に湿気が取り除かれての脱酸素なら良いですが、ほとんどの場合、毛皮に湿気が含んだ状態での脱酸素です。しかも、毛も皮も脱酸素によって、本来あるべき毛質やコートの形が崩れてしまうわけですから、シーズンになって着ようとしても、その毛と皮の癖が取れるのに、おそらく一週間はかかります。自分もパッケージを一個だけ買って試しましたが、納得できるものではありませんでした。

ひとつ付け加えますが、最近染色をした毛皮をよく見かけます。これは染色をするためにクロム鞣しをしているので劣化はほとんどしません。

ただし、匂い、カビ、虫は付きます。劣化しないぶん、リスクは減りますが、匂いやカビも大問題です。残念ですが、一般のお客様のコートの20年くらい経ったものの大半はカビが生えています。匂いでわかります。

 

いろいろ書きましたが、それくらい、問題が多い毛皮のクリーニングや保管です。

上に書いたことを実践してもらえれば簡単にはカビも生えませんが、一度カビが生えてしまうと、裏地が付いたままのクリーニングではカビは二度と取れることはありません。

私のところで、クリーニングも保管も、扱い方が見える顧客のものしかやらないのは、状態の酷い毛皮を預かって、商品やお客様のお預かり品に問題が起きたら大変なことになるためです。

時々お問い合わせで、毛皮に情熱が感じられる場合にのみですが、お手伝いとしてクリーニングを受けることがありますが、その時にも慎重に作業をいたします。チンチラやセーブルのヤーン(編み込み)マフラー等のクリーニングも、おそらくですが、私のところでしかやれないと判断している素材や仕様のものは、お手伝いの意味でクリーニングを受けることがありますが、基本的にクリーニングは受けていません。リフォームとセットの場合は解くついでに徹底したクリーニングが出来るので、保管のリスクが減りますから、その場合はリフォームの中でクリーニングをやると言うことでお受けしております。

極力ですが、私は自宅保管をお勧めします。その理由は保管に出した方が、匂いやカビが移るリスクが大きいからです。

それと、一般的にはクリーニングをしてから保管ですが、これも微妙なのです。本来はクリーニングをした直後がシーズン初めなのが一番なのです。ドラムという機械で毛も起毛し皮も多少は柔らかくなっています。ところが、一般的には、そこから保管に入り、半年ちかく保管状態が続き、せっかく起毛してフワッとなった毛も潰れてしまいます。

私のところでは、クリーニングはやはり最初にやります。理由は汚れを早く落としたいからです。しかし、保管だしのときに、もう一度、硬くなりかけた皮や保管で潰れてしまった毛を起こすためにもドラムにかけます。

手間を考えるとドラムをかけずに、そのままお渡しが楽ですが、やはり一番良い状態でお渡しをしたいのでそうしています。

今日も長々と書きましたが、上に書いた何点かのポイントを押さえてもらえれば、自宅保管もありです。ただし、放りっぱなしはダメです。一旦放りっぱなしになると永遠に何もしなくなります。そして気が付いた時には、どうしようもない状態になってしまいます。

とにかく大事にしてもらえると作り手としても嬉しいです。

 

長澤祐一