毛皮の染色 3 染色サンプル作成

今日は毛皮の染色 3 染色サンプル作成というタイトルです。

このテーマでどれくらい書けるかやってみます。

小さなチップサイズ、例えば5センチ×5センチのような小さな端切れのようなミンクだと、当然ですが染色浴も小さくなり、すべての助剤も少量になります。

さらに一番大事な染料の量も微量になってきます。そのため、1mlさらにはその1/10という単位になります。

もちろん、染料は例えば200ccの水に0.2gの染料を溶かして作ります。

200ccに2gの染料を入れても作りましたが、染料がなかなか完璧に溶けません。YouTubeなどでも溶かし方は出ていますが、鉱物を細かくしたような染料なかなか綺麗には解けないのです。

沸騰する中で溶かしても、一旦冷えて時間を置くと下に僅かですが沈殿します。沈殿するのは仕方がないのですが、沈殿したままで容器に入れた染料を使うと容器底に沈殿した染料が溶け切らない状態の溶かした染料を使うことになるのでデータとしては正確さを欠きます。

さらに沸騰させ続けると意外に蒸発して水分も減ったりすると染料の濃度が上がったりと、様々なところで問題が発生します。

それでも、大量に染色するなら、せめてミンク一枚を染めるならまだ、その誤差は許せますが5センチ四方の端切れミンクだと、染料のわずかな狂いが染め上がりに影響します。

水に溶かした染料をピペットという正確なスポイトのような器具で0.5mlを測ることになります。こんなケースだとどうしても誤差が出て染色後の色の結果に対しても不安が残ります。

それともう一つですが、少量の場合だと染色浴も小さかったりするせいかは分からないのですが、染料が綺麗に毛に吸着する前に皮にも吸着してしまい、その結果本来の求める計算した色にならないケースがあるのです。

そのため、私は小さなチップでの色見本は、結果としてサンプルにならないと考え、最低でもミンクの半分の量、または一枚のミンクを基本にするという結論に達しました。

ただ、それは正確なカラーサンプルが作れますが、コストがかかり過ぎるので現在はどうするか検討中なのです。

色の濃度は 毛皮の重さに対して染料の重さを決めていけば、そこそこ決めていくことができますが、青 赤 黄 の三色をそれぞれのバランスで配合していくカラーサンプルの場合には、あまりに小さい5c角のミンクではただしい量の染料が計測できないため難しいのです。

それと、素材の重さに対して決定する染料量は、毛皮の重さといっても半分は皮の重さも入りますので、皮が厚い雄と皮の薄い雌ミンクでも違いがでます。そのため、原皮一枚に対して染料を決めるのではなく、少しでも計算どうりに結果を求めようとして、すべての原皮を一枚ずつ計測して、その合計に対して染料の量を決めました。

プロがどうしているのかは分かりません。もちろん経験値も必要です。しかし、最初に経験が来てしまうような作業の仕方にはしないよう、どんな部分にも数値に置き換えてみるという手法を取りました。

例えばミンクの皮の毛の生えていない部分はカットして落としてしまい、極力、毛と皮が常に一定であることを気遣いました。それによって、どの部分を染めてもほぼ一律な仕上がりになるようにと心がけたのです。ミンクは前足部分までは毛が短く胴体部分は毛が長いなどの差もありますが、極力毛の生えていない頭などを落とし、重さイコール毛の量がほぼ正確にわかるようにしたのです。

そうすることでデータとして、他に活用できるというレベルが維持できます。

多分、そんなに手間をかけたら、業者とはいいませんが、儲からないとたくさんの方が、いうかもしれません。しかし、いずれデータや工程も整理されつくされると、無駄のない作りが出来ることになります。

私はそうやって現在に至っています。最初から儲からないから手を抜くという手法でやっていたら現在のパショーネの商品は生まれておりません。

私もまだまだですが、究極に考え尽くされた作業になれば必ず結果は出ます。そこまで我慢できるか、こんな無駄な時間をかけてられるか!といって最初から手抜き作業をして、いつまでたっても進歩しないかのどちらかです。

今日は染色の見本作成のことを書きました。書きなぐりに近いですが、次回はまた別のことを書いてみます。

長澤祐一

毛皮の染色 2 補助剤

今日は前回の続きで染色の補助剤について書いてみます。

プロがどんなものを使っているかは、ほとんどわかりません。少しだけ経験者の方に聞いてそれ以外は自分で調べたものです。

毛皮を染めるのにプロが使っているかどうかは分かりませんが、染料店で聞きかじりながら購入して使ってみて、これは良いと感じたものは湿潤剤というものです。

湿潤剤とは、毛皮の毛や皮の部分にしっかりと水が染み込んでいくようにするための助剤です。

プロは大きな桶に入れて何時間も漬け込むのかもしれませんが、私のようにテスト染めや染めても数本という場合には、何時間も水に漬け込み毛に水が均等に染み込むまで待つことができません。そのため最初は水を染み込ませて手で揉むようにして毛の一本一本にまで水を染み渡らせることをしていました。時にはブラシをかけたりして毛をほぐすようにしてやりました。

しかし、毛皮の毛は理論は分かりませんが、水を弾きやすくなかなか均等に毛の一本一本の奥まで染み込んでくれません。水や雪の中で生き抜くことを考えれば当たり前のことですが、きれいに水が染み込まないのです。

それを湿潤剤というものを使うと、ほぼ一瞬にして毛が水の中でフワーと馴染んでくれるのです。

なぜそれが必要かというと、綿毛が小さな束になったまま染料を入れてしまうと、小さな束の中まで染料が入りきらずに、結果として仕上がってから、その束がほぐれたときに染まってない部分がでてきて色むらになったりします。

一見たいしたことには感じませんが、染色前工程としてはすごく大事なことだったのです。

それともう一つ、均染剤というタイプの助剤があります。

均一に染めるための薬品ともいえますが、使い方は難しいのです。

均染剤は読んで字のごとしで、均一に染めるという意味の助剤です。しかし、使い方を間違えると逆に色が染まらなくなってしまいます。

理屈は分かりません。アルカリ性に傾くのかどうかは分かりませんが、大量に使うと吸着した染料が落ちてしまいます。酸性染料ということもあり、酸性に傾くと染料が入りやすくなるという性質を使って、ギ酸などを使い染料水を酸性にして染料を吸着させるというものですので、アルカリ性に傾くとせっかく吸着した染料が落ちてしまうのです。

よく、素人のかた(すみません自分も素人ですが💦)に私のようなものが染色をして色落ちしないか?と聞かれます。染色に対して理解がないと色が落ちてしまうと考えがちですが、酸性にして吸着した毛からの色落ちはしません。

落ちるとすれば、完全に吸着せずに付着状態になっている場合には色落ちします。私が経験した限りでは酸性によってキューティクルが開き着色したものは色落ちはしないと実感しています。

この均染剤は色むらを防ぐと言われていますが、例えばこういうことです。

仮に、染料の入れ方を間違えて、いきなり一部分に染料を入れてしまったときに、当然ですが、一部分に色がついてしまいます。しかし、均染剤が入ることによって一度毛についてしまった染料が水に溶けだして染料にバランスよく混ざって再度、酸をいれることで毛皮全体に吸着していくということができます。

均染剤を使わないと、一度、間違って毛皮についてしまった染料は落ちることなく、その部分は色むらになります。ということは染料を入れるタイミングや入れる方法はとても難しくなるということです。

それを少しでも安心して染料を入れられるように均染剤があります。

ただ、この均染剤の濃度や入れるタイミングもとても微妙で経験が必要でした。私もかなりの時間とテストを重ね今の方法をみつけたのです。

この均染剤の濃度を上げて使うと、染色した毛皮の染料を落とすことにも使うことができます。ただし、あまり強すぎてアルカリ性になりすぎると毛よりも皮に悪い影響があるようなのです。

化粧品でもよく弱酸性、、やアルカリ性という言葉が出てきますが、肌にも影響があるのと同じく、毛皮の皮の部分にも大きな影響があると聞きました。

最後に染料を吸着させるための酸について書いてみます。

私は最初は酢酸を買って使いました。ただ、一般のアマゾンとかでは酸度の強いものが売っていなく、染料店で蟻酸を購入して使っています。気を付けて欲しいのは、鼻を近づけて匂いを嗅ぐようなことはしないでください。一般の酢と違い強力な匂いがします。もちろん手に付けることもしないことです。慎重に扱ってください。劇薬とまではいきませんがとても危険です。

使い方は、染料を毛皮と馴染ませてから使いました。あくまで私のやり方ですが。

染料のなかにいきなり原液を入れるよりも、一度、染料をカップに取り出して、そこに蟻酸を入れて濃度を薄めてから、染色浴のなかに壁づたいに少しずつ入れていきます。

この辺は大量に染めるプロの方とは違うかもしれません。

インスタグラムで私のフォロワーのなかに海外の染色業者さんがいます。その動画では専用のドラムの端に染料を入れる容器があり、そこから少しずつ入れているものがあったり、いきなり染料を溶かすこともなく桶のなかに入れたりと、丁寧だったり乱暴だったりといろいろなやり方でやっています。

こんなものを見ると、やはり毛皮の染色の色の正確さはなかなか難しいだろうなと感じます。

というか、毛皮の染色とはその程度のものなのです。100万分の1の色なんて求められていないのと、求められても、そんなの無理!!と簡単に言えてしまうのです。

それが、毛皮染色の標準の考え方です。

逆に言うとそうしなければ仕事として受けられないからです。

しかし、今回は毛皮の染色とはそういうものなので多少の違い(多少ではない)は勘弁してくださいと言えるような色ではなく、すごく難しい色でしたので、素人の私が半年かけて挑戦してきたのです。

そしてようやく辿り着いたところで、この投稿を書くことにしました。

いつも書いていますが、もうこうなるとコストとか時間とかとは別の次元になります。

出来るまでやるのです。出来るまで諦めずにやるしか方法がないのです。

次回は、染料の色を作る計算式等について書いてみます。

長澤祐一

毛皮の染色 1 染料について

ここ9ヵ月間、ある事情で毛皮の染色をやってみています。

ようやく、9ヵ月が経ち、コート分の染色をすることができました。

一回のブログでは書ききれないので分けて書こうと思います。

今日は染料について書いてみます。

毛皮の染料は酸性染料という種類で、普通の染料屋さんでも売っています。

毛糸や生地を染めるのに使われています。

最初はもっと簡単に手に入ると思っていました。しかし、実際に初めて見るとなかなかうまく手にはいりません。

毛皮用に使われる酸性染料は分子がとても小さいと言われています。もちろん私は化学的なことはわかりません。聞いた話です。

知人からメーカーを聞き、メーカーから直接買うことができないので、問屋さんを紹介してもらって業者向けのものを1キロづつ売ってもらって染色がスタートしました。

ただ、赤の毛皮用の染料が手に入らず、赤だけを毛皮の染色工場から1キロ分けて売って頂き、やっとスタートしたのです。

実際、市販の一般的な酸性染料の赤を買って使ってみましたが、やはり毛皮の毛には入っていかず染色を何度試みても上手く着色しませんでした。染料販売店のひとに聞きましたが、そんなことはないはずだと電話で言われましたが、事実、着色しませんでした。

毛皮の染色は、毛皮の皮が熱に耐えられるようにクロム鞣しという処理をします。そして実際に染めるときには60度くらいのお湯のなかで染色します。生地などは沸騰させるまでやったりと、毛皮と生地の耐熱温度の違いもあり、染料販売店のひとの情報だと染まるはずだ、、なのですが、やはり染まりません。うっすら着色され赤味は付きますが、本来の染料吸着とは大きく違い、色落ちもしてしまいます。

最終的には、毛皮染色工場から訳を話して赤だけ譲ってもらうことになり、ようやく赤の毛皮用染料が手に入ったのです。

ところが、あとで気付くことになるのですが、私が染料卸屋さんから買った染料の青と黄色と、工場から分けて頂いた赤の染料の濃度が違うことが散々やったところで気付くことになります。

自分で買った青と黄色は当然同じメーカーのものなので濃さが一緒でした。しかし、別に買った赤だけは、同じ量の染料を使うと倍の濃度があり、どうやっても予想した色にならないのです。

散々テストをやって、例えば赤・青・黄色を 等分に入れれば予定ではグレー又は濃くすれば黒になるはずなのですが、何度やっても赤っぽいグレーになってしまい、もしかしてメーカーが違うということは、1gあたりの濃さが違うのかもと、青と黄色に 赤を少しずつ足していってグレーになるポイントを探っていくと、一対一の青と黄色に対して赤は半分の量で綺麗なグレーになることが解り、そこからは思うような色に作ることが出来るようになったのです。

今日は色の配合の方法についてまで書いてみます。

私のアトリエには島精機という会社のかなり高額なCADやペイントソフトが入ったコンピュータがあります。そのペイントソフトに測色計が付属していて、例えば、欲しい色を毛皮でも紙の印刷物でも測色計で測ることができます。

それによって、色の配合値が解ります。それに基づいて、染料を計測して混ぜることによって、ほぼ、求める色が出せるようになりました。

ただし、濃度は色の配合だけでは解決せず、毛皮の重さに対して、総量で何グラム又は溶かした染料を何cc入れるのかを実際の染色結果から求めるしかありませんでした。

一番難しかったのは染料を使いやすくするために、あらかじめ例えば200ccの水に染料を0.2g溶かした染料水を作ることでした。

問題は染料がなかなか均一に溶けてくれず、温度を上げて完全に溶かしたと思った染料が、温度が冷えて時間が経つと、また何割かは粉のような状態に戻って水の中に沈んでしまうことでした。

溶け切らない染料が容器の底に沈むことで、容器内の染料の濃度が若干変わってしまい苦労しています。

もともと毛皮の染色は見本に対してかなり曖昧な仕上がりでも仕事として通ってしまうということがあり、毎回同じ仕上がりというよりも、こんな感じということが多かったのです。微妙な色がピッタリということではなかったのです。

しかし、それは当たり前のことでした。コンピュータで表現できる色は1677万色です。人間の識別力を超えてます。ですからこんな感じがまかり通るのです。

私が今回染色を始めたのは、その業界にあるこの程度なら合格、、というレベルでは通らないような難しい色だったのです。薄いグレージュのような色でしたので、本来ならプロにお願いするのが当たり前のことなのですが、おそらく思ったような仕上がりは期待できないと考え自分でやる決心をしたのです。

よく考えればとても不思議な話です。プロに任せたら不安だから自分がやる、、 普通じゃあり得ないはなしですが、今回の求められている精度はプロでも難しいと判断しました。だって、通常仕上がってきた色に、もう少し赤くとか青くなんて言えません。まして今回のグレージュの超薄い色にわずかに赤味が入った色なんて、どうにでも解釈できてしまいます。

そんな意味でもせめて毛皮の色見本だけでも自分で作ろうと思ったところが始まりでしたが、結局全て自分でやってしまうということになったのです。

ここに至るまでは書くとこんなに短いことなのですが、掛けた時間は何か月もかかったのです。

次回は、実際に染める作業について書いてみます。 長澤祐一