毛皮コート(レットアウト)の型張り

今日はフルレットアウトしたコートの型張りの写真を載せてみようと思います。素材はロシアンセーブル・ヘビーシルバリー(Russian Sable Coat for heavy silvery)です。

一昨年、くらいに二点作ったうちの一点です。着丈は多分95~100cmくらいだったかと思います。セーブルの原皮、特にワイルドは傷が多く、傷を綺麗にロスなく抜いてレットアウトをするのですが、結構苦労します。

傷を抜くと、どうしても多少、皮に無理をすることになるのでレットアウト後に、その歪みが出やすく、綺麗にラインを揃えることが難しいのです。

毛皮と毛皮の間にレザーテープが入っていますね。人によっては、もしくは海外のもののなかにはグログランテープを使うところもあります。一見、生地のグログランテープのほうが軽そうにみえますが、私の使っている皮は0.5mmに薄くすいてもらっているので、同じメーター数でグログランテープと計って比べてみても私の皮のほうが遥かに軽いのです。

グログランテープのもう一つの欠点は伸びないことです。毛皮の型張りをしても毛皮は伸びるのですが、グログランテープは伸びが利かす、歪みを修正できないこともあり、さらに無理に引っ張ると、あとから当然縮みが発生し、皮だけが伸びたままという状態になり綺麗な仕上がりになりません。

この程度の伸びや縮みくらい、、、と思うかどうかは、どの程度のものをつくろうとしているかでも変わりますので、技術者の選択次第です。

私はあとからドラムをかけたりして柔らかくなってからバランスが崩れるグログランテープなど使う気がしません。私が使っている皮はヌバックというタイプらしく表もスウェードタイプで毛と馴染むので丸徳さんから買って使っています。

画像を見てもらうとわかりますが毛がレットアウトの裏面(皮面)に出ることはありません。これも、当然張る前には、ドラムで毛取りをしっかりしていますので通常であれば、この時点で毛がかなりでます。

ワイルドセーブルレットアウト

PFAFF 3560で縫うことで原皮の左右もバランスを崩すことなく毛もしっかりと起こして縫うことができるので、毛があとから裏にまわることなどありません。

もちろん人間の手で縫っても、正しい縫い方をすれば、毛が裏にまわることなどないのです。毛が裏に回るのは、余程の手抜きをして縫うか、技術的に未熟かのどちらかです。

しかし、残念ながら、多くのレットアウト加工されたコートは毛が裏に回ります。リメイクの時にドラムをかけても出てくる時があり、本来であれば最初に作られた時にドラムがけすれば毛が裏にまわるのですが、何故か、リメイクするときに出てくるものもありますね。これは、初期の加工の段階でしっかりとドラムをかけられていないという証拠です。

以前、書いたヴィスカルディの状態のいいものなどは、ドラムをかけてもドライをしても毛が裏に回ることはありませんでした。さすがに、当たり前に綺麗に縫っています。

今、中国で作っている技術者のなかで、このクラスのものを見たことがあるひとがどのくらいいるでしょうか?技術が伸びない、育たない理由のひとつには、本当に良いものを見たことがないということに起因しているとも言えそうです。それは、日本国内の技術者にも言えることですね。

PFAFF3560と手縫いの違い

もうひとつPFAFF3560のことを言うと、縫い目は、さすがに一定で綺麗ですが、残念ながら私が手で縫ったものや、ヴィスカルディなどで作られたミンクの縫い目からすると、0.2~3mmくらいは厚く縫えます。しかし、一般的な技術者が縫ったものよりは、はるかに薄く縫っています。さすがに人間のトップクラスの縫子さんに比べると少しだけ厚く縫えます。現状ではこれが限界です。でも、トップクラスなんてひと握りもいませんから。

さらに、どんなにトップクラスの縫子でも、一切伸ばさずに人間の手で縫うのは不可能に近いのです。それがPFAFF3560では、原皮の左右をまったく伸ばさずに縫うので、コートの形にしたときの皮の繊維の縦横の引っ張るバランスが安定していて、仕上がり後や、ドラム後の型崩れを防ぐことになり、形を保持するための余計な芯を使う必要もなく、柔らかさと綺麗なシルエットが作りやすいという、極めて、仕上がりに大事な、この部分を支える皮の繊維のバランスをとることができるのです。

今でも、たまにニューヨーク仕立てのものをみることができますが、裏をみると3.5~4mmくらいのカットの縫い目になっているものが多く見かけられます。これは実際に3.5mmカットで縫っているわけではありませんから、見て、、すごい!、、などと驚かないようにしてください。彼らは原皮をレットアウト後にどうすれば、毛の密度が上がり綺麗に見えるかを知っていて、レットアウト後にコートの形にするときに縦に皮を引いて形にしていきます。そうすることで、皮の繊維が縦に引かれ横は縮むという現象が起き、結果として毛の密度があがり、綺麗にみえやすくなり、さらにレットアウトの5mmくらいで縫ったものが3.5mmになるわけですから、縫い目が細くなることで目の錯覚も置きやすくなり、とても綺麗にみえるのです。

軽さと柔らかさは譲れない国内市場

ただ、ここで、このニューヨーク仕立てが今の時流にあわないことを伝えておきます。皮の繊維を縦に引くということは原皮もたくさん使い、さらに重量も重くなります。今の日本国内のマーケットで考えると、軽さは譲れません。軽さというテーマを無視して、毛皮のもの作りなんかできないのです。どんなに綺麗なもので、昔は売れたものでも、今は見向きもされません。軽さは綺麗、、、というテーマと対等な位置にあり、軽さや柔らかさを無視したもの作りはできないのです。ニューヨーク仕立てのフルレットアウトのコートの重さや、硬さはこの、毛皮を縦に引くことで得られる、毛の綺麗さと同時にマイナス面として重さや硬さが出ることを覚えておいてください。皮を縦に引くことで繊維が密集し、皮自体も厚くなります。だから、硬さもでてしまうのです。

そして、皮を縦に引くことで、手で縫ったときに起こるレットアウト後の原皮の左右の長さのズレを適度にごまかすこともできます。作る側にとっては、とてもいい技術のひとつだったのです。

しかし、今では、やはりこの手の技術は古いと言わざるを得ません。

アトリエでは、そんなことに対処するために原皮の皮を薄くすくことや、極力脂を抜くことや、パフという正確なミシンで縫うことで、繊維のバランスを崩さずに縫うことをして、結果として皮のバランスを縦6横4くらいのバランスで仕上げていくのです。こうすることで、軽さ、柔らかさを維持し、あのビデオにあるブルーアイリスミンクのロングコートのような柔らかさにしあげることができます。

今日は、かなり気合入れて書きましたが、レットアウトを表面的にみるだけだと、あ~~大変な作業だな、、、としか頭に入らないですが、今日書いたことを併せて、ショップでみれば、重さ、柔らかさ、、、毛の綺麗さ、、、といろんなところを見て判断することができます。仮に、判断はできなくとも、ただ、作業の細かさだけをみるよりは、軽さ、柔らかさ、皮がどんな風に張られているか等、面白さが味わえるのかもしれませんね。

*関連リンク
ブルーアイリスミンクのロングコート

PFAFF 3560でセーブルをレットアウト

長澤祐一

 

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