インペリアルセーブル (New York City) の技術力

今月は四日続けて、毛皮のオーダーメイド(原皮の調達、その二)に関する記事を書きました。話題が都度、飛んでしまい読みづらいかもしれませんが、今後も、大事だとおもうことをあっちこっち飛びながら書いていきたいと思います。よろしくお願いします。

ラインを太くする方法 (09/11/2013)
オーダーメイドの難しさ (09/10/2013)
ブルーアイリスミンクのオーダーメイド(作りの部分)
(09/09/2013)
毛皮のオーダーメイド(原皮の調達、そのニ)(09/08/2013)

今日は毛皮の技術者がはまりやすいところに焦点をあててみます。

一般的に、技量のある職人さんほど、カットしてカーブに縫ったり、複雑なジョイント方法を使ったりといろいろな、ごまかすテクニックを使いますが、本来のベストは、ぴったり毛の長さ、色、ボリュームを合わせ、余計なごまかしはしないという作りです。

そうすることで毛皮をいじめず、本来の良さを維持しながら毛皮を生かすことが出来ます。いつか書きますが、インペリアルセーブルというニューヨークのお店があり、そこにマーティン・パスウォール?という人がいて、セーブルやリンクス等を販売しているお店ですが、その彼が作るセーブルはまさに、そういう作りです。

職人さんはやたらカーブにして技術を誇らしげに作りますが、彼は、ここは、曲線だろう、、というところも直線のまま作ります。頭の部分の毛のぶつかりなと気にせず作るのです。しかし、よく見ると、どこも毛がぶつかり合うところがないのです。ラグランスリーブなどで、身頃との肩のジョイント部分などは一般的には曲線にしてラインを袖と身頃で合わせたりするのですが、彼はそんなことは気にせず、生地のように真っ直ぐ身頃のラインを作ります。

しかし、袖から身頃にかけて、毛のぶつかる部分はまったくなく、一枚の生地に毛皮のキャラクター(黒い背筋)が浮き上がるように作ります。これは、セーブルのアゴを100%カットして捨て、よい部分だけで作りますが、以前も書きましたが良い部分だけで作るのは、一見簡単そうに見えますがとても難しい技術です。

アゴを全部落とす作りは他にもよくみますが、彼の場合はさらに深く落とします。そうすることで端の毛の短い部分は全部落ちることになり、そうすることで何が起きるかというと、隣同士で合わせる毛皮の毛の長さ、色、ボリュームを完璧に合わせないと、逆に最悪の仕上がりになります。

このように良い部分だけ使って作りが簡単に見える作業も、実際には大変なリスクとの戦いであり、一番最初の毛皮をコートのバンドルにする作業から最後の仕上がりまで気を抜くところがなく、それ故に高い加工料を取るのも理解できるのです。

私は、30歳くらいのときに、彼のそのさりげないけど、知る人間にとっては怖くなるほどの技術力を目の当たりにして呆然としたのを覚えています。

最近、ロイヤルクラウンセーブルのロングコートをリメイクしました。その作りは当時の感動を思い出すことが出来ませんでした。それは彼が抜けた後の作りなのかもしれませんし、もしかしたら、自分の技術が上がったことで、その作りに、いまひとつと感じたかどうかはわかりませんが、確かにあの時の感動はありませんでした。それでも、ほどいていくときには、いかにもセーブルの作りらしいとおもえるテクニックがかいまみれましたので、いつかビデオにしようと思います。

写真はアトリエで作ったカラー3番のワイルドセーブル/フルシルバリーのハーフコートです。画像が小さく白い刺し毛が圧縮したためにボケてしまって残念ですが、雰囲気は伝わるかな、、と思ってアップしてみます。

今日は話が、セーブルの話題に行ってしまいましたが、次回はミンクにもどってレットアウトという技術について書いてみます。きっと、他のサイトでもレットアウトについては書いてありますので他のサイトも覗いてみてください。

長澤

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