当たり前のことをこなせない技術者

敬愛するとても優秀で高い感性をお持ちの職人のSさんとゆう方がいらっしゃいます。先日、そのSさんから電話を頂きました。

「長澤さん。あの毛皮屋さん知ってる??聞いてよ、お客様がコートもってきてさ~、そこで技術は日本一と言われたその毛皮屋さんでリフォームしたらしいんだけどね、袖にベッタリと芯を貼ってるんだけど、糊で豚皮貼ってるんだよ。やっと剥がしたよ。それにしてもあり得ないよね~、豚皮なんて、、ガチガチでさ~~ロボットの袖みたいだよ。。。」

なんて会話をしました。

私もつい先日、お直しをしたお客様のコートを開くと大きく接着芯が貼ってあり、何故こんな必要もないところにと思って、恐る恐る剥がしてみました。出てきたのは細かいたくさんの穴がでした。さすがに気持ちはわかります。しかし、縫いもせずに芯を貼るのは、完全に逃げでしょう。

最低でも、縫いつままないように、糸のテンションをゆるくして少し荒目に縫ってから何がしかの処理をするのが当たり前のやり方です。写真Aがその穴の空いた毛皮の裏側です。セーブルなので表からは見えにくいからでしょうが、Sさんのときと同じようなひどいレベルの処理です。

【写真A↓ 穴の空いた毛皮の裏側】

穴の空いた皮

これでお解りになるように、意外に中に入って見えない部分の処理は各毛皮職人さんの判断になり、お客様に見えないこともあり、ずさんな処理がなされる場合が多くあります。

ほんとに技術者が、毛皮そのものに魅入られ、都度、綺麗なものを作ろうとしない限り、こんな処理が繰り返されていきます。

ただひとつ、付け加えますが手間をかければいいものが上がるということでもありません。昔のコートが重い原因は、今となってはまったく意味のないような厚い芯や綿を一生懸命に抱かし、硬く重く、そして大きな手間をかけてきたことでも理解できます。

もう一つの写真Bはテーマとは違いますが、たまたま手元に技術の比較ができるものがありましたので撮ってみました。袖口にバイアステープを付けたものですが、皮が軟らかいとどうしても伸びがちになります。ミシンのテクニックがないと伸ばして縫ってはいけないところも、このように伸ばしてしまい、縫い目が蛇行したような状態になり、仕上がりにも影響します。

【写真B ↓ 袖口の縫い】

袖口の縫い

もう一つのほうは、アトリエで同じ条件のまま、伸び止めテープなども使わずに縫ったものです。柔らかいものや薄いものを縫う時にテクニックの差が大きく出ますが、これはそのいい例でしょう。

職人の技術が未熟なために、毛皮を伸ばして縫ってしまうことでこのような結果になります。これが、この袖口以外のいたるところに、この技術の差がでるということです。アトリエで縫ったものはもちろんアイロンをかけたわけでもありません。ただ縫い上げたままの状態です。

当たり前のことをこなせない技術者がたくさんの仕事をしています。そして、Sさんのように高いレベルの技術者が、そのレベルの低い技術者が縫った商品を開いて見て、あ~~ひどいなこれは、、 と思う場面がたくさんあるということです。私たちもコートを開く度に、当たり前のことをやるということの大事さと難しさをいつも思い知らされています。

長澤

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