誕生日、そして毛皮の日

今日は私の誕生日です。私がギターで音楽の道を目指すことを諦め、毛皮の仕事にアルバイトでついたのは多分、30年前くになると思います。当時は、毛皮の仕事といっても、始めたばかりで何もわからずに夢中でやっていました。

音楽、、、いやロックが好きで始めたにも関わらず、歌謡曲だったりニューミュージックと言われるようなものをやりバックミュージシャンとしてお金をもらう、そのことにいつしか疑問を感じ、やっぱり当初、福島の田舎から出てきたときに目指したものをやろうと、父親が亡くなったことをきっかけに、僅かにやっていた名ばかりのミュージシャンとしてのいくつかの仕事をやめバンドに打ち込むことにしました。そんなときに始めたアルバイトが毛皮だったのです。

接客業に向いてはいないということと、徒歩30秒で、お昼休みもギターが自宅アパートで弾けるということが決めた理由でした。

当時のアルバイト時給が500円前後の時代です。やってもやっても楽器やスタジオ代に消えていき、一日13時間労働なんてことはあたりまえの毎日が続き、そのうちに、いつのまにか毛皮に打ち込む自分に気付き、心機一転始めたバンドもなかなかうまく行かずにいて、いつの日だったか、毛皮の美しさに魅かれ、この仕事を本気でやってみようと思いギターを弾くことを諦めたことを覚えています。

当時、私が中学校、高校時代に売れてたシカゴが再び売れだした頃で、ギターソロをステーブ・ルカサーが弾いていて、そのギターが仕事中にラジオから流れて来ると、作業中にも関わらず思わず、ぐっときてギターを諦めたことの後悔や毛皮の仕事への不安など、いろんなことを思い、目頭が熱くなったことを思い出します。

その後、アルバイト時代に当時、毛皮を作ることが盛んであった韓国の工場に研修に行かせてもらったり、ある職人さんの、お弟子さんとなり一年くらいを過ごし、それから、新しい二つの工場の立ち上げに関わり、その後独立をいたしました。

新しい工場の立ち上げの時には、あれほど打ち込んでいたギターをやめたことの意地もあり、夜中まで仕事をしたり、好きな材料を使って好きなように作るというような貴重な時間も与えてもらい、夜中に仕上がった商品を広い工場のなかで一人で眺め、仕上がったコートがなにか語りかけてくるような、そんな気がして、どんどん、毛皮の美しさに魅かれていきました。

当時の若い頃は今よりもずっと自信過剰気味で、今思うと、足りないものが一杯あったような気がします。(もちろん今も足りないものは一杯あり変わらないのですが・・)当時は若気の至りもあり、毛皮を作ることでは自信満々だったように思います。

今日、スタッフの服部が退社いたします。5年半働いてくれました。これまでのスタップの中でも飛び抜けて優秀であり、さらに、パショーネの作る作品や技術にも今の私以上の自信や誇りをもってくれていて、言葉の端はしにその自信を感じる時、私は昔の生意気だった自分を思い出したり、その彼女の作り出す作品への情熱を感じとることが出来ました。パショーネの商品に誇りをもってくれてありがとう、そして、本当にお疲れさまでした。

11月20日、毛皮の日は、毎年きまって仮縫い、納品に毎日追われるという、そんな季節です。誕生日だから何かをするというような時期ではなく、家内と二人でいつもどうり、ささやかな乾杯をして過ごすのが私の誕生日、そして毛皮協会が制定した毛皮の日です。

長澤

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