毛皮の劣化が起こる管理の酷さ と 管理する側の無自覚さ

三回くらい前のブログで下記リンクの記事を記載しました。併せて読んでみてください。

内容はかなり難しかったのです。それでも、もう一つ付け加えようと思います。

よく毛皮は保管が難しいというような話を聞きます。それは間違いです。難しくしているのは管理する側なのです。

それは、一般の方や業者も含みます。

心配、不安という割にはあまりにも無造作に扱っていらっしゃる方が多いのも現実です。

これまで私が実際に経験したことを記載します。

いくつか例を挙げて記載してみますね。

例えば、一軒家で二階建ての二階の部屋でエアコンもなく箪笥や押し入れ、洋服ラック等に何年も掛けっぱなしでおいたものを何度か見せていただいたことがあります。真夏の高温の部屋のなかで、10年以上も一度もカバーから出すこともなくしまっていたと聞きました。おそらく40度以上の中です。

状態はというと皮は固くなり、繊維がまったく動かずカチカチでどうにもなりませんでした。ミンク素材も縫製もそこそこ良いものでしたが、まったく再生ができなかったのです。

あとは、箱、とくに桐箱 や トランク等に入れっぱなしの状態にしてあったものです。桐箱がよいと良くいわれますが、私の経験ではほとんどがダメです。問題が出る方のほとんどが何年も、場合によっては何十年も入れっぱなしで保管してたと言われます。

毛皮が仮に条件の悪い場所ででも着用して皮の繊維が常に動いている状態であれば、おそらくですが極端に劣化は進行しないはずです。

ちゃんと丁寧にしまっておいた、、、といのが結構悪いのです。

あとは、無意識に壁際に掛けて何年も放置してしまって色焼け・褪色してしまったとか、うっかり冷房や暖房の風のくる真下やそばに置いてしまったとか。しかも何年も。

例を挙げるときりがないくらいいろいろあります。以前のブログで、クローゼット等の奥に行った方の袖が劣化する割合が大きいと書きましたが、大したことではないようなそんなことでも長期間同じことが続くと劣化が進行して、リフォーム時に片方の袖だけ劣化していたり、エアコンの風吹き出し口のそばにコートをかけていて、片方の肩だけが劣化が進行していたりと、しかし、その大半が毛皮が悪いのではなく扱う側の問題なのです。

そのことを自覚せずに毛皮は難しいと言われたりしますが、原因のほとんどが人災なのです。

劣化とは別ですが、よく有料の保管ルームとかがあります。そのなかで燻蒸をしてくれるところがありますが、あれも、自分としては不安です。燻蒸して虫が死滅したときの死骸はどうなるのか?燻蒸で逃げた虫はどこにいくのか?一点ずつやるわけではないので、それぞれコートがむき出しの状態で大量にやるならコートからコートに虫が移らないのだろうか?等心配なことがたくさんあります。業者にケチをつけるわけではないですが、自分のコートを預けるのに不安が残るのです。

話元に戻しますが、毛皮の取り扱いが難しいのではなく、あまりにも取り扱いが酷いためにカビの発生、や香水の匂いの付着、最悪になると皮の劣化になります。皮の劣化などはやろうと思っても逆に簡単には出来ないのです。何か月、何年という単位で起こり、その原因は安易な管理にあるのです。

よく毛皮に虫がつくといいます。確かに小さな幼虫のような虫を見ることがありますが、40年以上この毛皮を扱ってきて二三回くらいしかないのです。それくらい虫がつくことは珍しいのです。

それよりも、カビや香水のほうが問題です。香水はご自分のものの場合はまだ許せますが。

私の会社でも、原皮、製品等たくさんの毛皮がありますが、保管で劣化したことはありません。あるとすれば百貨店取引時代にその百貨店保管ルームのなかで長期保管したセーブルマフラーがボロッと劣化により切れたりしたものがありますが、普通に少しだけ注意して取り扱っているものは、極端に劣化したことはないのです。もちろん、百貨店保管庫ですからしっかりしている環境です。それでも場所によっては劣悪だったりします。

私のブログでも毛皮の保管と検索してもらうといくつか出てきますが、日付の新しいものがより最新の情報です。それくらい毎年新しいことに気づきます。

最新のものから是非読んでみてください。よろしくお願いいたします。

長澤

正しい仕事(鞣し)をしても、川下の勉強不足で、正しい仕事が出来ない辛さ

今日のタイトルは長いですね。そして業界関係者には怒られるかもしれません。

私はよく鞣し屋さんと毛皮の皮の仕上がり具合について意見交換したり、実際に鞣しを依頼するときに、こんな風にしてほしいとお願いすることがあります。その理由は製品の仕上がりに大きく影響するからです。

鞣しで大事なことは毛根を切らずにより薄く鋤いてもらうことです。しかし、業者さんにとってはそのこと以上に大事なことがあります。原皮価格がサイズで決定しますので、より長さが出るように鞣して欲しいのです。もちろんすべての業者さんがそうではないかもしれません。

しかし、そのことと鞣しの最高条件とは異なるのです。私は鞣し上がった毛皮の皮を回転アイロンという大きな機械のアイロン部分に紙やすりのようなものをつけて仕上がった皮を毛根を切らないようにしながら鋤きます。もちろん失敗も散々しました。原皮をダメにすることなどしょっちゅうだったのです。

その時に感じたのは原皮を縦に引いて鋤くと、皮の繊維は縦に集中して繊維が固くなり鋤ずらいのです。

原皮価格を上げようとして縦に引いて鞣しをするとサイズはアップしますが、皮は薄くなりにくいのです。ならないとはいいませんがなりにくいのは事実です。

じゃあ、最大限薄く鋤いてから縦にひけば良いだろうとも考えられますが、作業工程は微妙で手順が少し変わるだけで手間が大きく変わります。ですから、口で言うほど簡単じゃないはずです。

私が頼んでいるところはホントに優秀な技術者さんです。私の話もしっかりと理解してくれます。そして再鞣しでは私の思うような鋤き方と脂の量にドライクリーニングで調整してくれます。技術者でも何度言っても理解できない人もいるのです。

ところがです。私が良いと思う方法や仕上がり方法で他の依頼者のものを仕上げるとクレームが来るというのです。脂の量を減らし軽く柔らかく仕上げても、その後の職人による作業中の水加減で硬くなったりします。

この話を聴いたときにはさすがに国内加工のレベルが低いなとがっかりしました。生意気いいますが、仕上がった私の商品とその職人さんの仕上げた商品を比べてみればわかるはずです。

ここに今日の一番言いたい、仕事を受ける立場からすると、どんなにそれはおかしいだろうと思っても、お金をもらう人のいうことを聞かざる得ないのです。どういう立場のひとがそれにあたるかは支障があるのでいいませんが、せっかく鞣し屋さんに技術があっても、その技術を最大限に活かせないという、川下のレベルが低いことで川上にある技術が生かしきれずに、結果、国内毛皮製品のレベルが上がらないという結果になり、世界中の、例えば中国にさえも圧倒的に負けてしまうという結果になってしまうのです。

しかし、何十年も同じ発想と方法で仕事をしている川下関連の業者さんの大半は変わることは難しいと感じます。自分が新しい、よりベストなものを求めない限り進化・進歩などありません。他人が教えてなどくれませんから。

もちろん、川下だけじゃありません。川上にいても技術を最終的な仕上がりに合わせて磨かなければ意味がなく、そのために仕上がった商品を見る必要があるのです。

毛皮の場合には、クロム鞣しでないかぎり10年単位では必ず皮の劣化と向き合わないといけないのです。湿気を吸収しやすい皮質としにくい皮質があるのです。

しかし、中間の加工屋さんにはそんなことは、まったく関係なく、商品として形になればよいのです。

そこがいつも難しいと感じます。 

最後はテーマから少しずれましたが、毛皮加工で向き合わないといけないことは作ることだけではないのです。綺麗に作るためにどうするのか?劣化しないためにどうするのか?を常に考えなければならないことがたくさんあります。

それが出来ていないと、業者であれば、自分の在庫が年々劣化していき、顧客に対してどこかで嘘をつくことになってしまうのです。何もしないことが嘘をつくということになりかねないのが、この毛皮という素材なのです。いつも悩みます。

煌びやかな世界と、その裏側にある難しい管理の問題でずっと悩みます。

長澤祐一

毛皮の劣化の意味と保管 最終稿

私がブログを開始して13年間、ずっと書き続けてきた毛皮の保管と毛皮の劣化について、やっと最終的な(現段階でですが)記載ができるようになりました。

私が保管で湿気を徹底して嫌う理由を下記に記載します。

興味のある方は読んてみてください。ただし、私は化学がまったくわかりませんので化学式のようなものはわかりません。間違いがあったらすみません。ただ、大まかな劣化の流れは間違っていないはずです。

簡単に説明すると 毛皮は通常、ミョウバン鞣しという手法で鞣されます。海外では同じことを指すかは不明ですがドレッシングと言います。衣服のように柔らかく仕上げるという意味らしいのです。

まず簡単に劣化の流れを書いてみます。

ミョウバン鞣しで使うカリウムミョウバンのなかにSO4硫酸イオン(硫酸根)というのかあるといわれます。

このカリウムミョウバンの段階では硫酸の性質はないと言われています。ところが、毛皮の皮が湿気を吸ったり濡れたりするとアルミニュウムカリウム(硫酸カリウムアルミニウム(ミョウバン))が一部解けてイオン化します(イオン化の詳細は省きます)。

このように湿ったり濡れたりしてイオン化したときにSO42マイナスというイオンがでます。このイオンだけでは硫酸として機能しません。

しかし、吸い込んだ水から、ほんの一部が微量な量の 水素イオン「H+」とOH-(水酸化物イオン)に分かれるのがごく一部あり、それがイオン化します。水素イオン「H+」と、このSO42マイナス硫酸イオンが両方存在するとh2SO4、ようするに硫酸になります。

この量はほんとに微量なのですが、毛皮の長期に保管状態の悪さが重なることで、少しずつ増えて、さらにそれが乾燥することで濃縮されて、濃い硫酸になり、それが皮の組織を痛める原因となります。

もともと鞣しとは、詳しくは書けませんが、アミノ酸とアミノ酸の間にアルミが入って組織をつないでいるらしいのです。その過剰結合にって生皮でないという、いわゆる鞣されたという状態になり、生皮が安定した状態になります。

今回のテーマの毛皮の皮の劣化とは、その過剰結合を硫酸によって切られてしまった状態のことを言います。

そのことで本来であれば皮を指で引っ張ったりすると伸びる皮本来の伸びる性質をなくし、紙またはボール紙のようになってしまうという状態になるのです。

劣化が進む条件としては、温度が高い、湿度が高い、例えば梅雨の時期などは最も危険です。諸外国で言えば、砂漠のような地域では劣化はしないと言えます。

私が、これまで散々湿気が湿気が、、と毛皮の保管のことで書いてきた意味がここにあります。

湿気が直接劣化を促進させる訳ではないのですが、湿気が入り、それが乾いて、また湿気が入るというように湿気が出入りを繰り返すことで、硫酸が蓄積していき皮の繊維結合を切ることになり劣化という症状がでます。

そのために、湿気を呼び込みやすい鞣し時に入る脂を極力鞣し屋さんに依頼して取り除いたり、自分でも使用制限のない弱めの有機溶剤とオガを混ぜてドラムに長時間かけてゆっくり脂を抜く作業をしたりとこだわってきたのです。

皮から不必要な脂を抜くことで湿気を吸収しにくい皮の性質にして、保管時に空気中の湿気が入らないようにしたりするのです。

しかし、着用する以上空気に触れないようにすることは出来ません。極力、長期間空気の出入りと出入りの回数を制限するしかないのです。乾燥している冬場は問題ないと考えていますが、梅雨から夏にかけては毛皮にとっては危険な時期になりますので、その時だけでも適切な保管方法があればと考えてきました。

最終的にどうしようと考えた結果、市販の圧縮袋で、空気を抜かずに保管するという方法です。意地悪な意見があるとすれば、袋に入ってる空気を抜かなければと反論がでそうですが、実際に袋に入る空気の中に入っている湿気の量は、おそらく微量で、その空気の量で毛皮が突然劣化するとは考えにくく、袋に入っている湿気は真夏時でも、一度毛皮コートを入れたら湿度は変わらないことは実験済です。ですから、できるだけ湿度の少ない時期にパックに入れる方がパックの中の湿度は低くなるということです。

今は、これが一番ベターな方法だと考えています。パックから空気を抜いてしまうと、毛皮コートがぺしゃんこになり、着用時に毛や皮が戻るまでに時間がかかり、毛の癖をとったりする必要がでます。このブログにもたくさんの方が、毛皮の毛癖直しで検索で入って来られます。それくらいお客様にとっては、シーズン直前の毛癖取は重要な問題なのです。

ですから、私はパックの空気を抜く必要はないと考えています。仮にこの方法で劣化が起きたとしたら、すでにお持ちの毛皮の劣化が進んでしまっていたということです。

是非一度上に書いた方法を試してみてください。すでに劣化しているものは劣化の症状が出るかもしれませんが、私が提案した方法で劣化がさらに進むことはないはずです。

不安な方は、いつでもお問い合わせくださいませ。

長澤祐一

最後に一番劣化しないようにするには、クロム鞣しをしてしまうことです。クロム鞣しをするということは、アルミで結合したドレッシングのように簡単に結合を切られてしまうことがないのです。但しドレッシングよりも少しだけ硬さがでたり、毛にクロム汚染によってグレーっぽい青味がつきます。真っ白のような原皮は少し目立つのと、クロムによる硬さやコストが高くつくなどの問題がでますので、すべての素材に適応するわけでもないのです。

但し、本来のドレッシングが一般のミンクなどと比べ脂が多めのため劣化しやすいチンチラには有効だったりします。もちろんコスト高にはなりますが、お客様のことを考えればするべきだろうと考えています。

ですから、当社では湿気を吸いやすい鞣しのチンチラなどはクロム鞣しをしているのです。