毛皮のクリーニング(毛ぐせとり)


今日は毛皮の一般的なクリーニングと弊社のアトリエでやるクリーニングとの違いを昨年、ビデオに撮ったものがあったのでそれを見ながら説明してみましょう。

毛皮で一番大事なのは表から見える毛であることには間違いないのです。しかし、それと同じくらい大事なのが毛を支えている皮の部分です。私の経験では毛はほとんどの場合劣化しません。

皮は、以前も書いていますが、タンパク質でできていて、思ったよりも条件次第では劣化いたします。そして、劣化がある程度のところまで進行すると、病気の癌と同じように手が付けられない状態になります。

ですから、アトリエでは裏地を外すような案件の場合には必ず、皮のクリーニングや脂分の調整をいたします。ビデオをご覧いただければ解るように、毛の部分もしっかりチェックして必要な処理は必ずやります。

 


通常店頭で売られている場合は、ほとんどの場合には、毛は綺麗に仕上げされています。ただし、強化なめしをしたものや染色をしたもののなかには、今回のコートのように、細かい癖がとれずに店頭にならんでいるものもあります。

プロがみても解らないものもあります。きっと、一般のプロの方のなかでも、ビデオをみて、あれは箱に詰めたりしたときのたたみ癖だろうと言う人もいるかもしれません。

しかし、そうではないのです。今回の毛癖は、商品の仕上がり時点ですでに起こっていた癖でしょう。通常、たたみ癖や折しわは、そのままハンガーにかけておけば空気中の水分によって、自然に取れていきます。しかし、今回のものは溶剤を使ってオガドラムに入れても取れませんでした。

まれにこのようなコートもあるのです。一般的には加工所、またはリフォーム屋さんでは、悪いものでも最初からの状態は、これは最初から、こうなっていましたというのが普通のパターンでしょう。

毛に熱やスチームをかけてストレートパーマをかけるように真っ直ぐにするのには設備や経験も必要ですし、大きなリスクも伴います。毛は火じゃない限り、多少の熱では髪の毛と同じように強さはあります。

しかし、皮は熱に弱いからです。クリーニング屋さんで毛や裏地側からコートに熱やスチームを加えて、皮を縮ましてしまい、保険で弁償をしたり、大きなお金をかけてお直しをしたりと、そういう事例はたくさんあります。それほど、皮面に蒸気をかけるのはリスクがあります。

弊社アトリエでは可能性があるものはリスクがあっても、しっかりとした設備と経験で出来る限り、毛皮が美しいと思えるような状態にしていくのがあたりまえであり、それが自分たちの本来の仕事だと思っています。デザインももちろん大事なのですが、毛皮が綺麗といってもらえるような部分も私たちの大事な役割のひとつなのです。
長澤祐一

 

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