リフォームにおける刈毛加工(シェアード加工)の問題点

先日、コメントにリフォームの問い合わせがありました。お問い合わせありがとうございます。メールにて返信いたしましたが、メールが拒否されており受け取っていただけない状態にあります。お問い合わせにつきましては出来る限りメールにて、弊社の解る範囲で回答をしております。そのためどうかメール受け取れる状態にて、再度、お問い合わせいただきますようお願い申し上げます。

今回はメールが受け取っていただけないので、当ブログにて掲載できる内容のみを出来るだけ詳細にお答えしてみます。

さて、今回のお問い合わせ内容は

「毛皮マントコート 着丈83センチ 裾一周270 シェアード加工して頂いたら、おいくらですか?」

でした。この問い合わせ内容で、今出来るだけの回答をしてみます。お問い合わせ内容に素材名が書いてありませんので、とりあえず素材はミンクであろうということを前提に回答いたします。

結論から申し上げますと、あまり、お勧めは出来ません。

理由:

刈毛加工をするために一度、裏地、全ての付属を外し、さらにコートもパーツごとにばらし、身頃、袖、エリ等全てのパーツ状態にし、さらにダーツ等もほどき全てのパーツを平らな状態にしないと刈毛加工ができません。

さらに刈毛加工段階でそれぞれのパーツの細い角の部分などはちぎれてしまい毛が短くカットされてしまうことが多いために、角の部分のすべでをレザー等を縫い付けて角の状態をなくさなくてはなりません。そのため、デザイン替えの刈毛加工よりも手間がかかり、その分加工賃も割り増しになります。現状維持のデザインのままでは元に100%戻すのは、以外に難しいのです。

それと、加工賃も一度全て、バラバラにしたものをもう一度形にしていくので手間は最初から作るのとほぼ同じ手間がかかり、一般的には高額になりがちです。金額はここはブログ記事ですので触れませんが、見た目の変化よりも高くつくケースが多いと思います。結果的に刈毛加工しかしていないにも関わらず、高額になるため仕上がりと価格のバランスがとれず、あまり現実にビジネスにはなっていないように思います。

ですから、一般的には料金は上がりますが、デザインを新しくするか、もしくは表生地の中にライナーとして刈毛した毛皮を使うというリメイク的な受注になることが多く見受けられます。そのため、最近はリフォームの業者さんも刈毛加工は料金表からも消えているケースが多く、刈毛して、そのままのデザインに戻すことはほとんどないように思います。

そして、刈毛加工そのものに、問題が多く含まれることもあり、おそらくクレームやトラブルが多過ぎて、メニューから除外されてしまったのだと思います。

仕上がりについて少しコメントします。

一般的には刺し毛のついたミンクを刈ることによって、中の綿毛の色がハッキリしてきますので、最初に作る技術者がよほど、綺麗に色を合わせていない限り、なかなか色が綺麗に仕上がりません。刈り上がった状態を見ると8割はそのままでは使うことができません。毛皮をほどき並べ替えたりしないと綺麗にならず、そのままのデザインに戻すことは不可能に近い状態になります。

当社は、リフォームが専門ではなく、お客様やお取り組み先様へのサービスの一環としてリフォーム、リメイクをしておりますので点数は多くはありませんが、私の経験上では刈毛して、そのままの使えるほど綺麗なものは、これまででも、3点くらいなものです。もちろん、どのレベルを基準にするかということもありますが、私の基準では数点でした。もちろん、値段が高いものが良いかというとそういう訳ではありません。あくまでそのときに使われたバンドル(毛皮の束)の色が揃っていたとか、作られた職人さんの技術が高かったとかいうことが仕上がりに一番影響を与えます。

余談になりますが先日も、毛皮業界では有名なビスカルディというブランドがあり、そのミンクコートのリメイクをしましたが、もとの価格が高額なこともあり毛質は素晴らしいものでしたが、色は刈ったら駄目だろうなというようなレベルでした。幸い、刈るリメイクではなく、素材はそのまま生かすというリメイクでしたので大きな問題もなく綺麗に仕上がりました。要は買った値段が高かった、イコール、刈毛してもOKにはなりません。

そんなこともあり、一般的には表の毛皮としては使うことが出来ずに仕方なく中のライナーとして使うことが多かったのだと思います。

さらに、一般的な刈毛の加工したコートは毛流れが逆毛で作られていて、そのために黒であれば、漆黒の黒というように深みのある黒になります。毛の向きが見る方向や光の方向に対して向いているので光を反射せず色に深みをもたせます。しかし、お客様のケープが万が一、普通の並毛(上から下に流れる)で作られているものならば、一般の商品とは毛の流れが逆になりますので、毛の反射があり、黒でも白っぽくみえるようになります。ですから、写真でみている刈毛のコートと同じようにはみえないのが現実です。

マントの加工方法がレットアウトという細かくカットして縫い合わせているものであれば、縫い目のラインが刈毛することによってはっきり見えてきます。これも、マイナス要因の一つです。

さらにリフォームの場合はカットの毛の長さですが通常は7~8mmくらいで刈ります。理由はすでに縫い目があるのであまり短くすると縫い目がしっかり縫えていない場合、粗が見えてしまいます。商品は一般的には最近は短くなる傾向で当社では6mmくらいです。ただし、リフォームの場合は、メスのミンク等、毛のもともと短いものは頭の毛の短い部分につきましては刺し毛が刈り切れず少し残ってしまいますので、これも問題の一つです。

以上が、すでに商品化されたコートを刈毛するということでの一般的は問題点です。今回のお問い合わせにあたり、他社のサイトもいくつか見ましたが、刈毛のみをしてデザインはそのままに戻すという加工方法での料金表は見当たりませんでした。

上記のいくつかの理由で、仕上がりの割にはお値段が高くつきますので、今回の加工は私どもではお勧めはいたしません。万が一やるというところがあるかもしれませんが、私が書いたいくつかの問題点を業者さんにぶつけてみてください。まともに回答できないところでしたら、その業者さんはお勧めはできません。

お勧めできるとしたら、プラクト(抜き毛加工)でしょう。今のデザインが気に入っていらっしゃるのであれば、形はそのままで刺し毛だけ抜くことができます。価格もおそらく刈毛するよりは安く済むはずです。その理由はプラクトは全て手作業でコートそのままの状態でできるからです。裏地を外したり毛皮をばらしたりすることなくできます。ただし、上の文でご説明させていただきましたが、色については加工前によくチェックしてもらう必要があります。刈毛よりはチェックは甘くしても少しは大丈夫です。これにつきましては説明が長くなりますので省きます。

ひとつ、注意しなければならないのは、マントのミンクのタイプがヨーロッパのものかアメリカタイプのショートナップ(刺し毛と綿毛の長さの差が少ない)のものとではプラクトの手間が大きく違いますので価格も違います。さらに付け加えるならば、アメリカンタイプの綺麗なみんくであればカットしたりプラクトしたりすることはお勧めしません。理由は刺し毛のついたミンクそのものに大きな価値があるからです。

一応、今回のお問い合わせで回答出来るのはここが限界でございます。これで、解らないところがございましたら、再度ご質問頂ければ助かります。何度でも、お答えいたします。次回は写真等がありましたら、もう少し具体的な提案もできるのかもしれませんので是非写真も添付して頂ければと思います。

長澤

追伸:写真は一般的なレットアウト加工したミンクコートを刈毛加工(シェアード加工)をしたものです。これは見てもらうと解りますが、刈ってもとても色がそろっていて綺麗な仕上がりです。このクラスはなかなかありません。これはレットアウトの縫いもしっかりしていて、色合わせも綺麗です。これだけ見ても作った人の技量がわかるコートです。このクラスになると、刈毛以外のどんな加工をしても綺麗に仕上がります。(長澤)

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