毛皮のパウダークリーニングの疑問、そしてクリーニングが出来ることの本当の意味

こんにちは。投稿の間隔が少し短いですが、前回が結構空いてしまったので、今日もアップします。

これまでも何度も一般的な毛皮のクリーニングで使われている手法のパウダークリーニングを施されているコートのリフォームをしてきましたが、最近ようやく少し理解できたことがあります。

私のところでも、リフォームを依頼されることがあります。最近気づいたことですが、コートを解体して最後に作業台の上に、小さな粒が残ります。粉というよりもさらに大きな粒なのですが、クリーニングで使うおが屑とも違います。確定は出来ませんが、毛皮のクリーニングで一般的に言われるパウダークリーニングのパウダーと言われる粉だと思われます。それ以外に毛皮のコートの中に入るものはありませんから。

よくオガ屑も一緒にコートの中に入ることがありますが、今回はオガ屑ではなく小さな粒がたくさん、コートを解体した後に作業テーブルの上に残りました。以前もよくありましたが、このコートのお客様に聞いたところ、随分昔に二回ほど毛皮のクリーニングに出して、そのまま保管していらしゃったようです。

今日の一番のテーマは、毛皮のクリーニングをする業者さんが、クリーニング後の結果をほとんど知らないという事実です。しかし、それはしょうがないこととも言えます。クリーニング後に、その自分がクリーニングしたコートをじっくりと見ることがないからです。

一般的に使われている毛皮クリーニングの手法、パウダークリーニングを誰が最初に考えたのかは分かりませんが、今実際に作業している人たちは、きっと何も考えることもなく疑問も持たずに作業をしているのだと思います。もちろん責められることではありません。しかし経営者は今のパウダークリーニングが本当に効果があるのかは検証する必要があると私は思います。

私も、過去に毛皮クリーニングについて、かなりの量の記事を書いていますから、都度書いたものに責任を感じてはいます。

毛皮は本来クリーニングするものとしては、かなり特殊なものです。一般の布帛以上に都度取り扱いを分ける必要があります。

話を戻しますが、作業をする人がなんの疑問も持たずに作業をして良いと言えるほど本来は簡単な素材ではないのです。もちろん、作業しているひとがこの記事を読んだときに、肯定するか否定するかは分かりません。しかし、何割かの人は確かに、、、と思うはずです。一般的には作業効率が何よりも優先するのが当たり前ですから、敢えてパウダークリーニングを否定はしませんが、今現在、国内で主流になっているパウダークリーニングには問題も多く含まれていると私は感じます。

毛皮のクリーニングは基本的には裏地が付いた状態であれば、オガや有機溶剤、またはパウダーと呼ばれるものを使ったとしても、絶対に手洗いして、オガやパウダーを払い落すためにドラムにかけるというのが正解でしょう。考えれば当たり前のことです。

オガやパウダーと一緒にドラムにかけたら、絶対に裏地と毛皮のまつり口からオガやパウダーとよばれる粉がコートのなかに入ります。おそらくですが、いや絶対と言いましょう。業者はそのことを知っています。知っていて知らぬふりをしています。絶対です。こんな簡単なことが分からないはずはありません。それでも、それしか方法がない、、、 儲かる方法ですよ。儲かる。それしかないと考えてパウダークリーニングをしています。

私のインスタグラムのフォロワーのロシアの業者さんは、全て手洗いです。中にはバイオクリーニングをしているところもあります。ロシアのほうがクリーニングは遥かに高いレベルでやっています。しかも、日本のように毛皮が分からないクリーニング業者がやるのではなく、毛皮業者が自分でクリーニングをしています。

クリーニング屋だって、その気になってちょっと調べればすぐにわかります。しかし今やっていることを替えようとはしません。

現実に以前、ブランド品を専門に扱うクリーニング店の社長さんから問い合わせがあり毛皮のクリーニングをして欲しいと依頼を受けたことがあります。その方も今のパウダークリーニングに大きな疑問を持たれていたようです。もちろん私のところでクリーニングを大量に受けて仕事にすることなどありませんので、お断りをして毛皮専用のクリーニングドラムがなくても出来るクリーニング方法をアトリエに来ていただいて二度ほど少しだけ教えて差し上げたことがあります。ただひとつだけ言えば、毛皮の本来の状態を知らずにクリーニングの方法だけを学んでも無理はあります。またいらっしゃると良いのですが。

話もどします。パウダークリーニングは毛の表面、または毛の少し奥のところまでしか洗うことが出来ません。そのため、例えば匂いですが、表面に付いている匂いはパウダークリーニングで一度は取れる可能性があります。しかし、毛の奥から時間の経過とともに匂いが戻ります。極端なことを言えば、スチームなどを仕上げに使えば簡単に匂いが戻ってしまうのです。あとは時間の経過とともに湿気が出たり入ったりすることで匂いはさらに戻ります。

仮に毛の奥まで匂いをとっても、皮についている匂いを落とさなければ、またすぐに皮から毛の奥へ、毛の奥から表面へと嫌な臭いが戻ります。毛皮のクリーニングは本当に難しいのです。そのためには有機溶剤とオガで洗うしかないのですが、そのためには裏地や付属を全部外して洗う以外に方法がありません。

私のところでやる毛皮のクリーニングは、毛皮専用のクリーニングドラムを使いますが、時間で言えば48時間くらいかけます。オガと有機溶剤で洗いますが、丸一日程度では足りません。有機溶剤が皮に染み込み、皮の脂分が有機溶剤で溶かされ、オガに吸収され、さらに毛皮やオガから有機溶剤が完全に抜けるまでドラムを回し続けます。

以前は一日程度で終わっていましたが、研究を重ねた結果、48時間を目途にドラムをかけるようになりました。その理由は匂いもですが、柔らかさが一日では十分ではなく、有機溶剤が完全にゆっくりと飛びきったところで初めて完璧に柔らかくなります。理由は私にはわかりませんが結果が示しています。

でも、パウダークリーニングを専門にやっているところで丸二日もドラムにかけたら仕事になりません。コストも合いません。ですから仕方ないことなのです。

私のところでも、リフォームはコストがほとんど合いません。それでもとことんやる意味は技術向上と仕上がりのためです。お客様が誰とかも関係ありません。目の前の毛皮と向き合うだけです。もちろん既成の商品やオーダー品を作るときもそうです。

毛皮には見た目の美しさが十分にありますが、その美しい毛皮に嫌な臭いがあったり硬さがあったりすれば、毛皮本来の美しさは出ません。

作る職人さんは毛の仕上がりには拘るかもしれませんが柔らかさや軽さ、匂いにまでは気を使うことはあまりありません。

でも、その全てが上手くいかないと本来の毛皮の魅力が出ないのです。その意味でも毛皮のクリーニングは、古い毛皮の汚れや匂いを落とすということと同時に新たな商品を作るときにも絶対に必要な技術なのです。

美容室で髪をカットして、その後シャンプーをしてセットをしないことは少ないかと思いますが、それと同じです。新しい原皮だからすべてがパーフェクトとは限らないのです。皮が厚ければ皮を鋤いて薄くもします。匂いや硬さがあればクリーニングもします。

汚れたり匂いのついた毛皮を洗う技術は新しい商品を作る上でも、とても重要な技術なのです。

そしてパショーネがファーブランドとして生き抜くためにも毛皮のクリーニングは絶対に不可欠な技術なのです。

最後にやっと今日の大事なテーマ(クリーニングが出来ることの本当の意味)に戻れました💦

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

長澤祐一