毛皮染色 黒の難しさ

毛皮の黒、例えばブラックグラマというアメリカンミンクの最高峰のミンクがあります。でも、それは黒ではありません。黒っぽいというだけです。しかし、そのナチュラルな黒っぽさは、まさに芸術的な黒とも言えます。

しかし、真っ黒ではないのです。毛皮を真っ黒にすることには問題があります。他の、例えば生地とかの染色のことは分かりませんが、毛皮のことであれば、それなりにわかります。

酸化染料と言われる、酸素に触れると黒くなるといわれる処方では、やはり限界があります。本当の真っ黒ではありません。同じ酸化染料でも染料屋さんがやるものはお湯につけて染色するようです。おそらくそのせいかもしれませんが皮が硬くなります。しかし、酸性染料でやれば私が依頼してやってきた結果でいうと柔らかさは保てます。しかし、これは染色時の温度をどこまで上げるかで決まるようにも感じます。私が黒として刈毛ミンクの染色を依頼したのは黒といっても黒に極めて近い濃いグレー、または濃いブラウンのようなものです。それでも十分に黒に見え、私はその処方で依頼していました。

酸性染料も本来の毛皮の染色である、お湯につけた状態で染色をするらしいですが、私はプロではないので詳しくは言えません。しかし、仕上がりについては誰よりも詳しいはずです。

その理由は、作る過程で、皮がどんな状態になったかを全て把握できるからです。染色加工屋さんも、例えば染色を依頼した問屋、または原皮屋さんも、そのほとんどが、表面的な黒の仕上がりしか見ません。無責任と言えばそれまでですが、しかたない部分もあります。技術者以外の、ほとんどのひとが皮を自分で濡らしたり加工したりしないからです。だから理解できるはずはないのです。

一般的に加工を請け負う業者さんは、原皮屋さんや問屋さんに仕事をもらう訳で、仮に皮が弱ってしまっていても、なんとか形にしようと思うのです。いわゆる、何事もなかったのごとく仕事を終わらせようとします。皮が弱いとは言いずらいのです。もしくは、職人さんが気付かないという場合もあるでしょう。

 

ここで少し黒の染色について書きますが、染色屋さんは黒といわれれば、より強い黒にしようとします。しかし、ここで問題が起こります。より綺麗な黒にするために染色の温度を通常よりも上げたとします。その結果クロム鞣しがかかっていても残念ながら皮は極度に痛みます。本来の柔らかさや伸びはなくなり硬く切れやすくなります。しかし、黒としては極めて綺麗な黒になるのです。温度をわずかにあげることで染料がよくついた綺麗な黒になるのです。

 

本来であれば、どこかで皮の強度がどこまで弱っているかを見極めなければいけません。しかしそれは皮を濡らして加工してみて初めて分かるのです。

私は染色は素人なのですが、例えば時間を低い温度で時間をかければ可能なのかと想像します。しかし、低い加工賃では、そんな歩留まりの悪い方法は使えません。

それは、仕事を出す方にも大きな問題があります。皮がより安全にキープされ、より綺麗な黒になるのであれば、加工賃が高くても、それを仕事を出す側は理解する必要があります。仮にそんな方法があったなら高くても、私はそれを選択します。

しかし、一般的には、皮のことを本当の意味で勉強している問屋や原皮屋さんはいません。もちろん当たり前のことですが、原皮の種類や価格、産地等については私が太刀打ちできないレベルなのでしょう。これを読んだら怒られそうですが、私もそんな使えない皮を買わされていますので言いたいことは言います。何度も、普通に引っ張って、バリっと切れる皮を買っています。もちろん知らずにです。今はほとんどのことが分かるようになりましたので、そんな皮を買うことはありませんが。黒の皮に関わるトラブルは結構あります。

例えば、使ってみて皮が弱いのが分かったら、私達の小売りの世界では、丁寧に謝罪して即返品です。しかし、この当たり前が染色加工や原皮屋さんとの間では、なかなか通じません。染色した皮が弱いか、または鞣し屋さんが鞣した皮が適正であるかは、染色加工上がりの皮を見るだけでは分かりません。

私も、以前加工業をやっていて工賃が安いな、、と感じていましたが、一切皮に対しての責任は負わない、あったとしても作り直し程度、、、ということで止まります。そしてその全ての責任は仕事を出した方が材料が駄目になった時のリスクを持ちます。

例えば、一般的に加工に出す場合は、その染色による劣化の度合いを知ることなくメーカーはお客様に提供してしまいますが、私の場合は直接お客様に納品するわけですから、その原料の状態から加工状態、仕上がり状態が全て見えるのです。

本音を言えば知りたくないことも全部解りますから、販売をすることにも重い責任が発生します。

話それました。戻します。

染色した皮の状態を理解するには、鞣し上がりや染色上がりの皮を何百回以上も加工してみる必要があります。鞣し上がりを軽く触ってみるだけでは本当のことがわからないのです。

そして、皮を理解するには、いろんな無理をしてみる必要があります。厚い皮を自分で鋤いてみるのも理解が深まる方法のひとつです。

例えばですが、染色とは違いますが鞣し上がった皮をさらに薄く鋤くのに、そのままでは毛根を切ってしまいますので、皮についているタンパク質をコーンスターチをお湯で溶いて、それを冷やしてドロドロになったコーンスターチを皮に塗り、一日置いて、コーンスターチのせいで発酵したのかどうかは分かりませんが、皮が膨らみ毛根よりも厚くなり、その状態で皮を鋤けば毛根を切ることなく皮を薄くできることなど、いろんなことを自分でやってみる必要があります。

やってみれば、常に自分が言っていることが正しいのかどうかが分かるはずです。やってないからわからないのです。リスクを冒すことでしか価値のあるものを得ることなどありません。毛皮は本当に難しい素材です。

その結果として自信をもって理論で戦うことができるのです。

話を戻しますが、染色イコール、単純に色の話なのですが、黒に関しては色と皮の状態の両面で話さないと、本当の意味で毛皮の黒について話すことはできません。

でも、言っときますが、本当に解ってないですよ。大半の人、、、いや、大半の業者の人がです。解ってないです。とても残念です。毛皮で皮がダメになったら毛がどんなに黒く染まっても価値はないのです。どこかに響けばいいのですが。

何故こんなことを書くかというと、染色屋さんも原皮屋さんも問屋・メーカーも知らない黒の染色リスクを最終的に被るのは商品を買うお客様になるからです。皮に大きなリスクを背負った商品が知らずにお客様のもとに行ってしまうことが一番問題なのです。業者は多少、おやっという部分があっても、これくらいは、、、といって見過ごしがちになります。人間ですから。

でも、そうならない技術や知識があれば防げることがたくさんあるのです。

今日は半分怒りながら書きましたので、ぐちゃぐちゃです。少しずつ、いつものように何度も読み返し修正します。

逆に言うと投稿当日のほうが本音が見えるのかもしれませんね。💦 長澤祐一