脂以外の劣化について

これまで、毛皮の皮の部分の劣化について、常に脂と湿気が大きく関わっていると書いてきましたが、今日はそれ以外の劣化について書いてみましょう。

以外に知られていないのが、毛皮の毛の量が少なく地肌が見えてしまう部分に使う染料が劣化に関わっているということです。理由はわかりませんが、これまでの私の経験でいうと染料でが入った部分が劣化しているケースが意外に多いのです。

染料はいろんなタイプがあり、水で溶くものやアルコールで溶くもの、さらにはすでに液体になっている等があります。

私は、ほとんどの場合浸透性の良いアルコールを使います。アルコールもメタノール、エタノールとありますが、メチルは身体に害があるので使いません。

基本的にはエタノールを使いますが、純度の高いエタノールは価格が高いので、お酒には使えないようなわずかに不純物が入ったタイプを使います。価格もメチルアルコールと同じくらいの価格で販売されています。

使う場所は特に、ここというところはありませんが、地肌がどうしても白く見えてしまいハゲのように感じてしまう部分などは、ほんとうにその部分にだけ使います。必要以上に使い、時間が経ち劣化が進むような使い方はしないようにしています。

一般的には、地肌が見えやすい場合に、すぐに染料を毛と同じか少し濃いめに塗って地肌を隠すことをしがちですが、そのまえにしっかりとした縫製と処理をすべきでしょう。

以前、書いた↓↓『短毛の毛皮の頭接ぎのテクニック』
http://www.passione.co.jp/blog/archives/353

という記事がありますが、このウィーゼルでも一般的には染料を使うだろうと思われますが、この写真の接ぎの部分は使っていません。

さらに、それ以外での劣化の原因があるとすれば、接着芯の糊でしょう。ここは多分技術者によって意見の分かれるところだと思います。接着芯の糊には粘着タイプとアイロンで熱を加えて接着するタイプがありますが、アイロンで接着するタイプは残念ながら時間の経過とともに、ほとんどが剥がれてしまいます。

もっと詳しく言えば、剥がれている部分と、そのまま接着している部分とに分かれてしまい、毛皮の形が崩れたりする問題が起きることがあります。粘着のタイプは、粘着の糊が皮の部分に浸透していき、硬化や劣化の原因になり、どちらがいいとはなかなか言いにくいのです。

長い間見てきた経験でいうと、劣化についての影響は、ほぼ互角だと判断しています。アイロン接着は付いてしまえば糊も硬く、さほど影響がなさそうなのですが劣化は起きます。粘着も糊の薄いタイプがあり、粘着のほうが良い場合もあると私は判断しています。

以前、ヨーロッパ系のコートやヨーロッパの作り方を勉強された職人さんは、端に綿テープを丁寧に糸で止めて、伸び止めテープの替わりにしていらっしゃったようですが、昔のように、デザインがシンプルなものの場合はそれでよかったのかもしれませんが、今のように洋服に近いデザインを都度、求められる時代においては、このやり方ではデザイナーやパターンメイカーが求めるシルエットを作りだすことが私は難しいと考えています。

以上、劣化の要因になる染料と接着芯の糊について書いてきました。実際の現場では仕上がってからの、再度、裏地を外してのお直しは避けたいので、どうしても、芯にしても染料にしても使い過ぎる傾向になりがちですが、ここをどう先を読み、さらに仕上がりを読み、芯や染料の使用を最小限にしていくという高度な読みが技術者に求めらます。

そこにも、都度、再度の直しや失敗という大きなリスクとの戦いがあり、私も、毎回のように悩むところでもあります。

長澤

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