毛皮の皮の劣化(方程式)

先日、お客様のコートの袖が切れてしまって直してほしいという依頼がありました。開いてみると、確かに皮全体が少し硬くなってきていて、避けている部分は特に劣化が進んでいました。毛皮の皮の劣化は、簡単にいうとこんな方程式になります。

皮の劣化は皮の状態 X 保管状態 X 時間=劣化

劣化はほとんどの場合、少しずつ進みます。上に記載した方程式でもわかるように、着用の度合いはあまり関係ありません。着用によって痛むのは皮ではなく、毛そのものが傷みます。皮が劣化したことで切れてしまったものの修理はとても難しいのです。

一般的には荒目の縫い目で縫ってしまい、表から芯をベタッと貼ってしまうのが職人さんの考えがちなところです。しかし、それでは柔らかさという毛皮本来の風合いはなくなり、厚紙のような手触りになってしまいます。

弊社のアトリエでは、こんな場合はどうするかというと、 (さらに…)

チンチラの劣化の原因

今日はナチュラルのチンチラの劣化についてお話しましょう。チンチラは触ってわかるように、とても繊細な毛皮です。毛はもちろん、その毛を支える皮も非常に繊細です。皮は背中の部分に少し厚みがありますが、脇から腹にかけて特に薄く繊維な性質上、縦に切れやすのが特徴です。

そのため、チンチラのドレッシング(毛皮特有のなめしの方法)には他の毛皮よりも破れにくいように柔らかく仕上げようとする意図が見えます。しかし、これがくせ者なのです。皮を柔らかく仕上げるために入れる脂の量が他の毛皮に比べ、チンチラは一般的に多い傾向にありました。

そのために、チンチラの皮には樹脂のような水に溶ける脂が他の毛皮よりも多く含まれることになります。この脂が時間とともに空気中の水分をどんどん吸収し、その水が酸化するのと同時に皮に含まれた脂も酸化していきます。

この酸化が進む事が劣化につながります。ドレッシングで使われる脂の酸化が劣化の一番の原因と言えるでしょう。リフォームなどでよく劣化した皮を見ることがあります。これは購入してから時間が経過したことで、脂が酸化し皮の劣化が進んだということでしょう。このような劣化した皮をリフォームする場合に、皮が紙のようにパリパリと切れてしまうことがあります。

毛皮の製作工程では必ず水を使う場面が出てきます。詳しい科学的なデータは解りませんが劣化した皮の大半は、水(H2O)がタンパク質を分解してしまうことにより、元々の皮の繊維(チェーン状に鍵がかかった状態になっているもの)の鎖が外れてしまいます。その為、リフォームの途中で皮が不自然に硬くなったり、切れたりします。

水が原因である証拠は他の水以外の溶剤では水のように切れやすくなることはありません。ナチュラルの原皮を扱う際には水の使い方なども含め、慎重に作業を進めなければならないのです。

しかし、最近のチンチラ・・・例えばデンマーク産のものなどは、そういったことを意識したのかは解りませんが、脂分がとても少なく、表面もヌルっとした感じではなく、カラッとしたさらさらした感触の仕上がりになっています。

これは長い目で見た場合、過去の原皮と比べて劣化の具合に差が出てくるかもしれないと興味深く思っています。そして、これも重要なポイントですが、これら上記のことは全てナチュラルの原皮について言えることです。

前回のブログでご紹介したような、染色加工を施したチンチラはナチュラルの原皮とはまた違う「クロムなめし」という加工がなされています。

クロムなめしとは皮革と同じ形式のなめしであり、この加工のため、染色した原皮はナチュラルの原皮よりも耐久性に優れるようになります。

私達のアトリエで保管している原皮は何年経っても、ほとんどの皮が劣化することはありません。これは劣化の大半は製品になってからの保管状態によって、その度合いに差が出ることを示しています。

長澤

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