毛皮の作りとコンピュータ、そしてデジタル化

私が34歳の時、この仕事で独立した頃、当時、海外の有名な某ブランドのアトリエに入って仕事をされた経験をお持ちの方に付属屋さんの紹介で、お会いする機会がありました。国内でも当時は有数の職人さんだったかと記憶しています。

その当時、数回お会いし、当時のその方のアトリエを拝見させていただいたり、いくつかヒントを頂いたり、お作りになられた商品を見せていただいたり、自分の作ったものを見ていただいたりと、大変お世話になった記憶があります。

当時、私は、まだWindowsではなく、DOSVパソコンをいじりだしたころで、その頃、すでに、いずれ、こんな手仕事でも必ず、コンピュータを多用する時代がくると、今では考えられないような貧弱なソフトで作り方を記録していたり、アシストカルクという表計算ソフトでデータを管理したりして、毛皮という超アナログな仕事にコンピュータを使うことをトライしていました。

何かの電話で、当時その崇拝するほど距離のあった、その職人さんにコンピュータについて話す機会があり、こっちは独立したばっかりの超ド新人で、それでも、熱く思いっきり、いつかコンピュータの時代が来ると、その職人さんに語ったのを記憶しています。

反応は、もちろん冷ややかなものでした。ご自身の仕事に大きなプライドをお持ちでしたから、コンピュータでものが作れるなら苦労しないと言われ冷ややかに笑われたことを覚えています。
もちろんこっちは、何も言えるはずもなく、黙って奥歯を噛むしかなかったのですが。

それから28年くらい経ちました。私の今の、この超アナログ的な作業の連続の毛皮を作る仕事のなかでも、コンピュータが使えなくなったらどうなるか?など想像しなくてもコンピュータがなければ何もできないことがよくわかります。東北の大震災の時にも電気が使えないというだけなのに、手作業の私たちの仕事が何もできませんでしたから。。

作業の全てが、CADやデジタルデータによってコントロールされているから

その職人さんも、当時を思い出すと細かくノートに裏地のまとめ方などを記録していたのを思い出します。そうなのです、その職人さんも実は、アナログですがデータ化をしていたのです。私はそれを、デジタルデータとして保存したり、作り方の難しいもは動画化して、それをエクセルのハイパーリンクですぐに見たいデータが見れるということをしているだけなのです。

今では、動画はあたり前の時代ですが、20年前では、デジタルビデオカメラなどない時代で、8mmビデオカメラで撮って、デジタルデータ化するのも撮った時間と同じ時間をかけて8mmを回してデータとして取り込んだものでした。今は一瞬で取り込めますが、そんな時代から動画化をしていました。

私たちのような手作業の多い仕事は基本的には頭脳と手先の熟練によって作業が行われていますが、どうしても全ての情報を覚えることは出来ません。膨大なデータ量ですから。仮に、私はデータなど使わないで仕事が出来るという人がいれば、それは、毎日、同じ種類の仕事をしていらっしゃるか、もう一つは少し否定的な意見ですが、たいしたレベルの仕事をしていないという証です。決して自慢できません。

私のアトリエでの仕事は手作業の部分が大半ですが、その作業をコントロールしているのはデジタル化されたデータなのです。こういう場合はこう作れ、、、とか、CADもそのひとつです、何度でも同じデータが使え、プロッターで出力できます。

以前、youtubeで孫正義さんの公演を聞かせていただきましたが、そのなかで、多分チップの能力の話だったかと思いますが、この30年で2の20乗、いわゆる100万倍進化し、さらに今後30年でまた100万倍進化すると言っています。もう、数字が大き過ぎて、よく解らない世界ですが、おそらく私たちの仕事もきっと大きく変わるのだろうと想像はつきます。

私のところにある島精機の古いSDS-ONEでも、コートの色をリアルに替えることができますが、そんなことはもうあたり前で、3Dシミュレーションでデザインやトワルのチェックも出来るという、つい、10年前ではおもちゃのようなソフトも、コンピュータの能力がものすごい勢いで進化したことで、今後はソフトもどんどん進化して私たちの毛皮を作る仕事でさえも、実際にコンピュータのなかで全ての予測や段取りができてしまい、あとは実際のモノづくりだけが手作業として残ってしまう、そんな楽しみな時代が来るのかもしれません。

オーダーもZOZOTOWN(ゾゾタウン)のような考え方があたり前になり、私たちのような小さな規模の企業にも、新しいシステムを導入して行かないと生き残れないというのは、おおよそ想像がつきます。

私たちの、大半が手作業のような毛皮を作る仕事でも、作る人のテクニック以外のほとんどのものがコンピュータやデジタル化された機器によってコントロールされる時代がくるのでしょう。そうなればなるほど、私たちの手作業の部分だけが大事な仕事として残ります。もちろん、手作業以外がデジタル化によってコントロールされた企業になったときの話ですが。

そして、当然、三回目のブームと言われているAIも大きく関わることになるのだろうと思います。私のところも、パターンを作る作業等で、毎回同じ作業を強いられます。毎回やっているにも関わらず、毛皮専用のパーツパターンを作ったりすると、細かいミスが頻発します。

マニュアル化しても、人がやれば、やはりミスは何度も起こります。AIがもっと身近になれば、こんな問題はなくなるのでしょうが、現状はまだ難しいのです。

私の仕事が現役で出来る限られた時間との勝負になるのでしょうが、早くそんな時代がくれば、より手作業でしかできない仕事の大切さがクローズアップされるのだろうと思います。

今日のテーマは、一週間かけて少しずつ書き溜めましたので昔のブログのように少し長めになりましたが、今日のテーマのコンピュータは、私のなかでも、本当に大事なツールであり、同志のような存在です。

もちろん、分からないことが多くてたくさん苦戦もしていますが、これからも、コンピュータの能力に注目し、自分の仕事にどう活かせば、もっと仕事が楽しくなるのかを考えて日々の仕事をして行こうと思います。

長澤祐一

 

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【続編】毛皮の基本的な技術(その1)

以前、毛皮の基本的な技術(その1)というブログを書きました。

毛皮の基本的な技術(その1)

今日はその続編を書きます。

以前、毛皮の背筋(キャラクター)についてこの中で書きましたが、そのときにホワイトミンクでも見る気になれば、はっきりと見えると書いたような記憶がありますが、写真の薄いピンクに染色したミンクで背中心を出す作業をしたときに撮った写真です。

丁度良い写真がありましたので載せますね。

ミンクをバキューム台の上でスチームアイロンをかけて、毛を真っ直ぐに整えてから、ミンクの毛を立てた状態のものです。

ここでわかるのは中心が少し周りの色よりは暗く沈んで見えますね。

こうすることでミンクの背中心がはっきり解ります。ホワイトミンクも同じです。

何故こうなるかと言うと、スチームアイロンでまっすぐになった毛をバキューム台の上にパンパンと叩きつけるとスチームアイロンで伸ばされて均一になったミンクの毛が立とうします。

そのときに背中心の刺し毛だけは、毛根の生え方が他の刺し毛に比べてお尻に向けて急な角度で生えていることと毛が少し硬めで短い分、立ちにく、そのため、おしり側から斜め45度くらいの角度から見ると、ちょうど視線に対して真っ直ぐ向かってくるようになり、刺し毛の腹に当たる光の反射がなく、綿毛だけが見えて、暗く沈んで見えます。

それ以外の刺し毛は背中心の刺し毛よりも毛も少し長めで立ちやすい角度で生えていますので、毛の横面の光の反射が目に映り白っぽく見えるのです。

ただ、背筋の濃い部分をチェックするだけではなく、迷ったら、こんな背中心のチェックの方法もあります。ホワイトミンクで真っ白なためキャラクターが見えにくいと、つい、この辺だろう、、、と安易に背中心を出すことが、最終の仕上がりに大きく影響があることを知っていれば、いい加減な作業は出来ません。

綺麗な仕上がりとは、こうした基本的な作業の繰り返しの延長線上にあるだけのことで、特別なことをするというわけではありません。

このブログでも、哲学のように、あたり前のことをあたり前こなすと何度も書いていますが、わずかな甘えが、あとから取り返しのつかないことになることを常に頭に入れて、ものづくりをしたいものです。

読者の皆様へ
今は、以前のように、長い深く踏み込んだブログが書けません。申し訳ありません。しかし、文字数は少ないですが、都度内容の濃さに変わりはありません。どうぞ、これからもときどき見に来ていただければ嬉しく思います。

長澤祐一

 

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毛皮の基本的な技術(その2)

お尻合わせの縫い

毛皮の縫いで難しいと思われるのが、お尻合わせの縫いであることは、少しできる技術者ならわかりますし、仮にわからないひとがいるとすれば、難しい、綺麗に縫わなければいけないという意識というかレベルにない人であろうと思われます。

お尻同士の毛が何故縫いにくいのかは、毛が頭からお尻に向かって生えていることで、縫い合わせるときに、毛が向かいあい、毛をなかに入れて縫うことが難しくなります。毛が硬くなれば余計に入りづらいし、刈毛のように短いのも、とても毛を皮から出ないように入れて縫うという基本的な毛皮の縫いが、しにくくなるからです。

もっとも大事なBCの縫い

コートや小物のなかでも、もっとも大事な部分にBC(バックセンター)という部分があります。例えば、ヘチマカラーであれば首の後にくるカラーの中心、ストールもそうですね。

コートであれば横段仕様の場合には背中の中心にお尻同士を縫い合わせた部分がきますね。みな、どれもとても目立つ位置にきます。私が見る中ではお尻合わせがまともに縫えているところは、まず皆無です。

厳しい言い方ですが、ひどいレベルはたくさんあり、まあまあかな??と思えるレベルがほんとうにたまにあります。国内生産のものには逆に少ないという現実もあり、前回も書きましたが国内の職人さんのレベルがとても低いことを実感しています。

大事な原料を使い、それなりに高い加工料を払っても、この程度かという現実は、やはり厳しいものがあります。

これは、リフォームでお預かりした小物を有機溶剤で洗いオガで匂いをとった状態のものです。 (さらに…)

毛皮の基本的な技術(その1)

背中心

背中心を出す

今日は「毛皮の基本的な技術」について書いてみます。写真を見てもらうとわかりますが、セーブルを水張りして余分な部分を落とし、背中心でカットしたものです。

写真が少しぼやけてますが許してください。写真では中心でカットしてあり、その中心側の左右が黒っぽくなっていますが、これがセーブルのキャラクター(背中心)です。左右にバランスよく、黒い毛が分かれていますね。

これが以外に難しいのです。写真では幅が2cmくらいありそうに見えますね。しかし、毛が広がって、そう見えているだけで、実際の毛の濃い部分は左右あわせても1cmあるかないかです。この背中心の出し方は、それぞれ技術者によって違いがあるかとおもいます。例えば一番多いのは下にチャコぺーバーを敷いてルレットなどで毛皮の上から、背中心の濃い部分をなぞる方法があります。他にもいろいろとあるでしょう。

しかし、大体の職人と呼ばれる人達の、そのキャラクターを出す精度は、かなりいい加減なレベルであると断言できます。一般的なものづくりでは、技術の日本と呼ばれていても、こと毛皮の技術になると、技術者のレベルは残念ながら、厳しい言い方ですが、こんな基本的なことさえもできないひとたちが大半であると言わざるをえません。 (さらに…)

毛皮技術の伝承 | 下積みは必要か?

一昨日、カンブリア宮殿という民放の番組で「東京すしアカデミー」という、すし職人になるための学校の放送を観ました。

寿司職人になるために下働きで、毎日何年も皿洗いをさせられ・・・、それがあたりまえになってしまっている。しかし、ほんとうに職人になるのに、そんなに毎日毎日皿洗いが必要なのだろうか?もっと効率よく技術を伝達する、または吸収する方法がないだろうか? そんな短期間で、すし職人になるための技術を教えるという内容でした。

私自身の35年の毛皮業界での生業を振り返ってみて、この「東京すしアカデミー」の「効率よく技術を伝達する、または吸収する方法を模索し、短期間ですし職人になるための技術を教える」の人材育成コンセプトに共鳴しました。 (さらに…)

インペリアルセーブル (New York City) の技術力

今月は四日続けて、毛皮のオーダーメイド(原皮の調達、その二)に関する記事を書きました。話題が都度、飛んでしまい読みづらいかもしれませんが、今後も、大事だとおもうことをあっちこっち飛びながら書いていきたいと思います。よろしくお願いします。

ラインを太くする方法 (09/11/2013)
オーダーメイドの難しさ (09/10/2013)
ブルーアイリスミンクのオーダーメイド(作りの部分)
(09/09/2013)
毛皮のオーダーメイド(原皮の調達、そのニ)(09/08/2013)

今日は毛皮の技術者がはまりやすいところに焦点をあててみます。

一般的に、技量のある職人さんほど、カットしてカーブに縫ったり、複雑なジョイント方法を使ったりといろいろな、ごまかすテクニックを使いますが、本来のベストは、ぴったり毛の長さ、色、ボリュームを合わせ、余計なごまかしはしないという作りです。

そうすることで毛皮をいじめず、本来の良さを維持しながら毛皮を生かすことが出来ます。いつか書きますが、インペリアルセーブルというニューヨークのお店があり、そこにマーティン・パスウォール?という人がいて、セーブルやリンクス等を販売しているお店ですが、その彼が作るセーブルはまさに、そういう作りです。 (さらに…)

当たり前のことをこなせない技術者

敬愛するとても優秀で高い感性をお持ちの職人のSさんとゆう方がいらっしゃいます。先日、そのSさんから電話を頂きました。

「長澤さん。あの毛皮屋さん知ってる??聞いてよ、お客様がコートもってきてさ~、そこで技術は日本一と言われたその毛皮屋さんでリフォームしたらしいんだけどね、袖にベッタリと芯を貼ってるんだけど、糊で豚皮貼ってるんだよ。やっと剥がしたよ。それにしてもあり得ないよね~、豚皮なんて、、ガチガチでさ~~ロボットの袖みたいだよ。。。」

なんて会話をしました。

私もつい先日、お直しをしたお客様のコートを開くと大きく接着芯が貼ってあり、何故こんな必要もないところにと思って、恐る恐る剥がしてみました。 (さらに…)