毛皮のパウダークリーニングの疑問、そしてクリーニングが出来ることの本当の意味

こんにちは。投稿の間隔が少し短いですが、前回が結構空いてしまったので、今日もアップします。

これまでも何度も一般的な毛皮のクリーニングで使われている手法のパウダークリーニングを施されているコートのリフォームをしてきましたが、最近ようやく少し理解できたことがあります。

私のところでも、リフォームを依頼されることがあります。最近気づいたことですが、コートを解体して最後に作業台の上に、小さな粒が残ります。粉というよりもさらに大きな粒なのですが、クリーニングで使うおが屑とも違います。確定は出来ませんが、毛皮のクリーニングで一般的に言われるパウダークリーニングのパウダーと言われる粉だと思われます。それ以外に毛皮のコートの中に入るものはありませんから。

よくオガ屑も一緒にコートの中に入ることがありますが、今回はオガ屑ではなく小さな粒がたくさん、コートを解体した後に作業テーブルの上に残りました。以前もよくありましたが、このコートのお客様に聞いたところ、随分昔に二回ほど毛皮のクリーニングに出して、そのまま保管していらしゃったようです。

今日の一番のテーマは、毛皮のクリーニングをする業者さんが、クリーニング後の結果をほとんど知らないという事実です。しかし、それはしょうがないこととも言えます。クリーニング後に、その自分がクリーニングしたコートをじっくりと見ることがないからです。

一般的に使われている毛皮クリーニングの手法、パウダークリーニングを誰が最初に考えたのかは分かりませんが、今実際に作業している人たちは、きっと何も考えることもなく疑問も持たずに作業をしているのだと思います。もちろん責められることではありません。しかし経営者は今のパウダークリーニングが本当に効果があるのかは検証する必要があると私は思います。

私も、過去に毛皮クリーニングについて、かなりの量の記事を書いていますから、都度書いたものに責任を感じてはいます。

毛皮は本来クリーニングするものとしては、かなり特殊なものです。一般の布帛以上に都度取り扱いを分ける必要があります。

話を戻しますが、作業をする人がなんの疑問も持たずに作業をして良いと言えるほど本来は簡単な素材ではないのです。もちろん、作業しているひとがこの記事を読んだときに、肯定するか否定するかは分かりません。しかし、何割かの人は確かに、、、と思うはずです。一般的には作業効率が何よりも優先するのが当たり前ですから、敢えてパウダークリーニングを否定はしませんが、今現在、国内で主流になっているパウダークリーニングには問題も多く含まれていると私は感じます。

毛皮のクリーニングは基本的には裏地が付いた状態であれば、オガや有機溶剤、またはパウダーと呼ばれるものを使ったとしても、絶対に手洗いして、オガやパウダーを払い落すためにドラムにかけるというのが正解でしょう。考えれば当たり前のことです。

オガやパウダーと一緒にドラムにかけたら、絶対に裏地と毛皮のまつり口からオガやパウダーとよばれる粉がコートのなかに入ります。おそらくですが、いや絶対と言いましょう。業者はそのことを知っています。知っていて知らぬふりをしています。絶対です。こんな簡単なことが分からないはずはありません。それでも、それしか方法がない、、、 儲かる方法ですよ。儲かる。それしかないと考えてパウダークリーニングをしています。

私のインスタグラムのフォロワーのロシアの業者さんは、全て手洗いです。中にはバイオクリーニングをしているところもあります。ロシアのほうがクリーニングは遥かに高いレベルでやっています。しかも、日本のように毛皮が分からないクリーニング業者がやるのではなく、毛皮業者が自分でクリーニングをしています。

クリーニング屋だって、その気になってちょっと調べればすぐにわかります。しかし今やっていることを替えようとはしません。

現実に以前、ブランド品を専門に扱うクリーニング店の社長さんから問い合わせがあり毛皮のクリーニングをして欲しいと依頼を受けたことがあります。その方も今のパウダークリーニングに大きな疑問を持たれていたようです。もちろん私のところでクリーニングを大量に受けて仕事にすることなどありませんので、お断りをして毛皮専用のクリーニングドラムがなくても出来るクリーニング方法をアトリエに来ていただいて二度ほど少しだけ教えて差し上げたことがあります。ただひとつだけ言えば、毛皮の本来の状態を知らずにクリーニングの方法だけを学んでも無理はあります。またいらっしゃると良いのですが。

話もどします。パウダークリーニングは毛の表面、または毛の少し奥のところまでしか洗うことが出来ません。そのため、例えば匂いですが、表面に付いている匂いはパウダークリーニングで一度は取れる可能性があります。しかし、毛の奥から時間の経過とともに匂いが戻ります。極端なことを言えば、スチームなどを仕上げに使えば簡単に匂いが戻ってしまうのです。あとは時間の経過とともに湿気が出たり入ったりすることで匂いはさらに戻ります。

仮に毛の奥まで匂いをとっても、皮についている匂いを落とさなければ、またすぐに皮から毛の奥へ、毛の奥から表面へと嫌な臭いが戻ります。毛皮のクリーニングは本当に難しいのです。そのためには有機溶剤とオガで洗うしかないのですが、そのためには裏地や付属を全部外して洗う以外に方法がありません。

私のところでやる毛皮のクリーニングは、毛皮専用のクリーニングドラムを使いますが、時間で言えば48時間くらいかけます。オガと有機溶剤で洗いますが、丸一日程度では足りません。有機溶剤が皮に染み込み、皮の脂分が有機溶剤で溶かされ、オガに吸収され、さらに毛皮やオガから有機溶剤が完全に抜けるまでドラムを回し続けます。

以前は一日程度で終わっていましたが、研究を重ねた結果、48時間を目途にドラムをかけるようになりました。その理由は匂いもですが、柔らかさが一日では十分ではなく、有機溶剤が完全にゆっくりと飛びきったところで初めて完璧に柔らかくなります。理由は私にはわかりませんが結果が示しています。

でも、パウダークリーニングを専門にやっているところで丸二日もドラムにかけたら仕事になりません。コストも合いません。ですから仕方ないことなのです。

私のところでも、リフォームはコストがほとんど合いません。それでもとことんやる意味は技術向上と仕上がりのためです。お客様が誰とかも関係ありません。目の前の毛皮と向き合うだけです。もちろん既成の商品やオーダー品を作るときもそうです。

毛皮には見た目の美しさが十分にありますが、その美しい毛皮に嫌な臭いがあったり硬さがあったりすれば、毛皮本来の美しさは出ません。

作る職人さんは毛の仕上がりには拘るかもしれませんが柔らかさや軽さ、匂いにまでは気を使うことはあまりありません。

でも、その全てが上手くいかないと本来の毛皮の魅力が出ないのです。その意味でも毛皮のクリーニングは、古い毛皮の汚れや匂いを落とすということと同時に新たな商品を作るときにも絶対に必要な技術なのです。

美容室で髪をカットして、その後シャンプーをしてセットをしないことは少ないかと思いますが、それと同じです。新しい原皮だからすべてがパーフェクトとは限らないのです。皮が厚ければ皮を鋤いて薄くもします。匂いや硬さがあればクリーニングもします。

汚れたり匂いのついた毛皮を洗う技術は新しい商品を作る上でも、とても重要な技術なのです。

そしてパショーネがファーブランドとして生き抜くためにも毛皮のクリーニングは絶対に不可欠な技術なのです。

最後にやっと今日の大事なテーマ(クリーニングが出来ることの本当の意味)に戻れました💦

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

長澤祐一

毛皮リフォームの本当の意味と価値

毛皮のリフォームで検索するとたくさんのリフォーム専門業者さんがトップページに出てきますね。私のところは以前は4ページ目くらいに出てきましたが、最近はリフォームの投稿もないため、何ページめくっても出てきません。

出てくるのは私が知っている業者さんが一ページ目に何件かでてきて、あとはほとんど知りません。それくらい様々な業者さんがリフォームをテーマにネットでアピールしています。

それはそれでいいんです。ただ残念なのは、ほとんどの業者さんが既成の商品をつくらずにリフォームしかやっていないことです。なんとなく、ただのお直し屋さんオンパレードになっていませんか?正規の商品を作ることをあきらめたその腕に大事なリフォームを託して良いのだろうかと悩みます。もちろん、リフォームは決して簡単な仕事ではありません。

 

今現在行われているリフォームとは一般的には、よく言われる表紙を変えて中身が変わらないというものがほとんどです。でもそれで良いんですか?だって皮も劣化進行中なのですよ。そのまま放置したら、どんどん劣化が進行するのです。もちろん、染色加工のしてあるクロム鞣しが施されているものは劣化しにくいですが、20年以上前の時代のものでコートで染色加工をしてあるものは少なく、ほとんどのものがドレッシングという毛皮を柔らかく仕上げるための鞣しがほとんどで、劣化しやすいものがほとんどです。黒でも鞣し屋さんで酸化染料で加工されたものは、やはり劣化は進みます。

 

それでも、知ってか知らずかは分かりませんがそんなことには、全く関知せずに形だけ変えるリフォームがほとんどなのです。一部には私のこのブログで気が付きリメイク前にクリーニングをと謳っているところもありますが、それでも、通常の業者がやるパウダークリーニングでしかやっていません。通常のパウダークリーニングで使う有機溶剤やオガの量では毛皮の皮から適切に劣化の原因になりやすい脂を抜くことはできません。

さらに自分でやったこともないのにパウダークリーニングが良いと何故言えるのかが解りません。毛皮のクリーニングは結果が目で見て解りにくく、様々な経験をしてやっとこれだと辿り着けるものです。クリーニングをホームページやブログに記載するならば、自身でそこまでやってから書くべきです。

以前からも、このブログで書いていますが、皮の劣化を止めるクリーニングをするタイミングがあるとすれば、リフォームをするこのタイミングしかないのです。

 

その一番大事なタイミングを知識経験がないことを良いことに、自分の都合で見た目のデザインだけを替えて、それをリフォームだと言い張るのは正直、どうなんだろうかと感じます。

本来、毛も、皮の状態も良くなったのであれば店頭の売り場に出してもおかしくないものが出来るはずです。

 

しかし、一般的には、これはリフォームだから、一般の既製品には劣りますという言い訳が、よく聞こえます。

パショーネのリフォーム品のレベルは、絶対ではありませんが、私が目指すものは、常に店頭で販売できるレベルにするということです。出来るかどうかは問題ではなく、そう思って努力や工夫をするところに意味があり、毛皮の状態が良いものは本当に店頭にだせるようなものになることがあります。

 

ただ、表表紙だけを替えてリメイクしましたという、よくある他社のリメイクとは違います。本気で店頭に並べ新品同様に扱ってもらえる仕上がりをリメイク後の状態と考えています。ここで書いてるだけではないですから。本気でそうなるよう、努力しています。良く考えれば当たり前のことです。低い技術で作られたコートをパショーネがクリーニングをしてリメイクするのです。最初より綺麗になるのは私にとっては当たり前のことです。また、かなり危ないことを書いてますが、本気で店頭に置ける品質のものを常に目指します。

例えばバッグやマフラー等の小物を作るときでも、必ずコートをばらしたときにクリーニングをします。古いコートにはダニや匂いが付いているものがほとんどです。小物だからと言って手を抜くことはありません。

 

本当に形だけのリフォームが多いことに残念な気持ちになることが多いのです。

 

最後に記載しますが、パショーネはリフォーム専門業者ではありません。メインの仕事は常に新作も作り、オーダーも受けています。そしてお客様のクリーニングも受けています。そのパショーネがリフォームをするというところに価値と意味があるのです。

 

長澤祐一

なぜクリーニングを通常の仕事としてやらないか?

当社は、おそらくですが、どこよりも毛皮と毛皮のクリーニングを知っていて、どこよりも綺麗な商品を作ることが出来ると自負しています。よく毛皮の知識と言っても、産地や種類をたくさん知っていらっしゃる専門家はたくさんいらっしゃいます。しかし、それと毛皮の商品としての高い品質がどうあるべきかを知るということとは別の問題になります。

今日はクリーニングの話なのに、いきなりおかしな書き出しですが、毛皮を作り販売し、クリーニング・保管をするということは、かなり広範囲でさらに素材についても深く知る必要があります。素材といっても、ラビットとかからどんなものでも深く知る必要があるという訳ではありません。販売されている商品のなかでも、素材価値の高いミンクやチンチラ、セーブル、ロシブロ、アーミン等の知識については、より深く知る必要があります。その理由は高額品を預かるというリスクが高くなるからです。

当社は仕事として商品を作り販売するだけではなく、販売した商品のクリーニングや保管も考えなければなりません。

やっと本題に入りますが、当社がクリーニングを本業にしない理由があります。もちろん、パショーネのメインの仕事が商品を作り販売することですが、販売した商品のアフターとしてクリーニングや場合によっては保管をしたりもいたします。それから未来のお客様のためのクリーニングもあります。

しかし、クリーニングは本業ではないのです。その理由のひとつとして、一般的に知られていませんが、古い毛皮コートや小物の多くは保管状態の悪さから、カビや香水の匂い、さらにはダニや毛皮に良く付く虫もいます。リフォーム時によく身体がかゆくなることがありますが、おそらくダニかなにかの虫がいると想像がつきます。

毛皮のリフォームを当社も時々受けますが、そのすべてを裏地・付属等を外した状態でオガを使いながらのドライクリーニングを一番最初にします。これによって匂いやカビ、ダニや虫の大半の駆除をして、自社商品やお預かり品への匂い移りやカビや虫が付くことを防ぎます。

しかし、ビジネスとして大量にクリーニングをやるとなると当然、当社の商品在庫や大切なお客様からのお預かり品にも、クリーニングでお預かりした古いコートなどから匂いやダニ、虫等がつくリスクが高くなるのです。そのため、大量にクリーニングを受けることはありません。今日のタイトルの理由がこれです。

 

そんなこともあり、クリーニングにつきましては、当社の技術の高さを知ってもらうためにやることがメインでクリーニングやお直しが専業ではありません。どんなにクリーニング技術が高くても、どんどんクリーニングを受けるということはないのです。

お問い合わせいただき、内容を聞いて、私のところでしか出来ないと思うものは極力やろうとしています。しかし、何でもかんでも受けるという訳ではありません。

当然ですが、私のところで販売したものは全てが毎年ではないにしてもクリーニングをいたしますので、常にクリーンな状態をキープしています。そのためクリーニングでお預かりしてもほとんど他のコートに強い匂いを移したりカビ臭さを移したりすることはありません。しかし、当社以外の商品を受け入れるのは、未知の部分が多く大量に受け入れることはリスクが大き過ぎて出来ないのです。逆に言うと、それくらい当社の商品とその購入後のお客様の商品のクリーニング時の取り扱いについては神経を使っているということです。

せっかく購入していただいたものが、カビ臭かったり、虫が付いたりしたら、どんなに価値があると信じて購入していただいても意味がないからです。

最後にひとつ付け加えますが、販売前の毛皮製品がどんな扱いで保管されているかというと、そんなに良い環境ではありません。そこそこ大きな部屋で大量にストックするわけですから、しかも一点ずつカバーをかけたりしないのが普通です。もう少し大事に扱えばいいのにと良く感じています。  長澤 祐一

 

 

毛皮のバイオクリーニング

こんにちは。最近では珍しく10日以上更新ができませんでした。ごめんなさい。

今日のテーマは文字通りバイオクリーニングです。国内のクリーニングでは、私が見ている限りでは依然としてパウダークリーニングオンリーですね。

私のこのブログはプロのかたも見てると思うので、バイオクリーニングの詳細は書きません。しかし、国内サイトではどこを調べても毛皮に関するバイオクリーニングのことは出ていません。

それは、何故だかわかりますか?

簡単です。一般的なクリーニング屋さんじゃ出来ないからです。

私は、この薬品を海外から仕入れましたが、国内にはありません。

それと、その方法ですが、やはり毛皮を知らないパウダークリーニング専門の業者さんには難しいと感じます。もともとの毛質が素材によってどう違うのか、良い状態、悪い状態さえしらない可能性の高い業者では難しいと思うのです。

海外ではプラス匂いをとったり、黄ばみを取ったり、黒く色をクリーニング作業の一環で染めることが出来たりと、さすがに海外の技術の進歩はすごいものがあります。

色を染めるなら色落ちが、、、と思いますが、多分、酸化染料を使うのかもしれません。さらに70%酢酸を使うこともあり、もしかしたら毛の組織を破壊することに使うのかもしれません。あくまで推測ですが。組織を破壊したところに染料をいれていくということなのかどうかはわかりませんが、きっと色が定着することで色落ちがしないのかもしれません。毛皮の歴史が長い分大量のリフォームやリメイクが求められ、新しい技術が作られてきたのだと思います。

私は、実際に海外から取り寄せてみたのです。実際に私のところにくるクリーニングは、そのほとんどが私の商品なので当然綺麗ですし、汚れたりしているものがなく、なかなかその効果を現実に明確に見ることができないのですが、理屈から言えば汚れは取れるはずです。詳細は言いませんが。

黄ばみを取ることも、これは取るというよりは、クリーニングをして汚れによる黒ずみを落とし、青味を少しずつ付けるという手法ですが、確かに画像で見る限りはきばみが取れています。綺麗なサファイアミンクの色になっています。

いずれ、私のところでもビジネスとして立ち上げるかもしれませんが、しばらくはテストを繰り返してみようと思います。何故なら、これはクリーニング屋というより私達、毛皮を作る人間の仕事だなと感じたからです。海外でも、私が確認したほとんどが毛皮を修理したり作ったりするところでした。

このバイオクリーニングは、国内業者さんがやっているパウダークリーニングとはまったく考え方が違います。最終的にドラムをかけてムダ毛等を取ったりはするかもしれませんが、訳の分からない、効果がどれほどなのかもわからないパウダーなどは一切使わずにやります。

基本的には、毛皮を良く知るひとたちだからこそ出来るクリーニングだなと感じます。ですから、クリーニングは受けるが、全て専門の業者に出しているような小売店さんや小売りサイトさんではクリーニングする現場がない訳ですから無理なのです。一般的な業者さんの薬品とオガをいれて機械に入れ、あとは危険なグレージングマシンにかけて、エアーガンでポケットに入ったオガを取り除くというような毛皮のクリーニングではありません。

バイオクリーニングの作業自体はリアルに毛そのもののクリーニングです。

最後にひとつ伝えますが、私がいつも書いている毛皮のクリーニングは、ことある度に書いていますが、リフォームをすることが前提で毛と皮そのものも含めたクリーニングですが、今回のバイオクリーニングは純粋に毛の部分のクリーニングです。

毛皮コートをお持ちで、このバイオクリーニングに、ご興味のあるかたは遠慮なくお問い合わせください。お待ちしております。

長澤祐一

 

チンチラマフラーのクリーニング

今日もクリーニングについての投稿ですが、一般的なものではありません。

以前、毛皮の編み込み(ヤーン)タイプのクリーニングを書いたことがあります。https://www.passione.co.jp/blog/yarn-muffler-cleaning/  今日は、この続きを書いて見ます。

クリーニング前

 


ヤーン(編み込み)タイプにはセーブルやチンチラの大判のショールやストールがあります。これは、どちらかというと首に直接触れずに、和服のように少し抜き気味に着用することが多いので、汚れ方としてはかなり軽いか、もしくはほとんど汚れないというケースが多いのです。しかし、細めのマフラーになると首に直に巻き付けることが多いので、チンチラにしてもセーブルにしても、皮脂がべったりと付いてしまうことがあります。

写真は以前使った写真ですがセーブルの編み込みタイプが皮脂がべったりついてしまったものです。この手のクリーニングはアトリエで何度もやっているにも拘わらず、小さなマフラーのクリーニング記事を掲載するつもりがなかったので写真がないのです。すみません。チンチラのクリーニング前と後があればよかったのですが。よく考えれば、こんな皮脂の汚れで困っていらっしゃるひとがたくさんいるにも拘わらず、、、なのですが、当時はお取引先の受注品の作業に追われっぱなしで、この手のクリーニングで毛皮ファンの役に立とうと考えておりませんでした。

以前の、取引先(百貨店)ではリスクが超高いものは万が一があるとクレームもすごく、私一人の問題ではなくなってしまうのでとてもビジネスにはならず、かといって、百貨店に出店していたこともあり、このブログでオープンに仕事としてアピールし価格を表に出すこともできなかったので、百貨店の本当に親しいお客様のものくらいしかクリーニングをしていませんでした。

お客様のものをやるという、その理由のひとつに販売した時期がわかるということでした。劣化がするような状態ではないことが分かっているからです。それと親しいお客様であればチンチラやヤーンの繊細さ故の弱さがあることもご理解いただき、そのうえでのクリーニングになりますので、繊細な作業にはなりますが、ある程度の安心感をもったなかでの作業でした。

しかし、やっと時間もでき、さらにこのブログで、価格を提示してもよい環境にもなりましたので、今後は少しずつ自分のところでしか出来ないようなクリーニングやお直しも受けようと思います。

まず最初に、チンチラは購入後どれくらい経過しているか、または保管の状態はどうであったのか?これによっても劣化の度合いが違います。ヤーンでも皮脂が皮に染み込んでしまって、それが原因で劣化が進んでしまっている等、様々な状況が考えられます。

最初にお聞きすることは購入から何年経過しているのか?さらに写真を撮っていただき見せていただく必要があります。

それ以外にも確認事項があります。クリップやカギホックがついていると、ヤーンはドラムに入れてクリーニングしたときにヤーンの細い毛皮を引っ掛けてしまうので一度取り外したりと、ものによって手間が全く違うのです。さらに表から見て大丈夫と思っても実際に現物を見ると皮がすでに劣化していてクリーニングの意味がなかったりもします。

そのため、チンチラにつきましては、どんなものでも一度現物確認が必要になります。それによって価格が決定します。一応の目安としては状態がよく留め具もついていないものでチョーカーのように短いもので6,600円プラス送料からになります。大き目のものや留め具を中を開いて取り外さなければならないものは11,000円プラス送料くらいか、それを超える場合もあります。さらにストール系になると、古いものは裏地も替えないといけないという場合が多く価格は都度現物を見てということになります。おおよそは見積もりがでますが、ここには書きません。遠慮なくお問い合わせくださいませ。すべては現物確認をしてからになります。

価格につきましては、よくある、 6,000~ と単純な表記もありますが、この手のもののほとんどが6,000円で収まることなどなく意味があるのだろうかと思ってしまい、私はできません。少し細かいですが、様々な条件を聞いた上で判断したいと考えています。

よくネットにもチンチラのクリーニングがYouTube等でありますが、ひとによってはパウダーのようなものやコーンスターチのパウダー等を使います。自分もこれをやりましたが、皮脂が完璧にはとれないのと、付けたパウダーが完全に取れないという、結果としては中途半端なものでした。さらに業者さんがやるパウダークリーニングもありますが、パウダークリーニングで使う有機溶剤の量では落ちないのと、クリーニングドラムに入れるならば留め具は最低でも外すか保護する必要があるのと劣化に業者さんが気付くことが出来るかどうかという問題もあり、安易に受けて適当な仕事をするか、怖がって全てを断るかのどちらかになる気がいたします。

それくらいチンチラは難しいのです。例えば新品で買って2~3年で皮脂でべたべたになった場合は費用を少しかけてもクリーニングすることで2~3年は使え、結果的に5~6年使えるというパターンが一番理想的と思います。あとは購入価格や品質によって、さらにクリーニングをして長く使うかどうかの判断になろうかと思います。もちろん、ヘビーに使えば一年でべたべたになりますから、毎年クリーニングが必要になります。クリーニング費用も掛かりますが、その分たくさん使用するわけであきらめもつきます。お客様によってはスカーフ等を上手く使い地肌に直接付かないような使い方をされていらっしゃるケースも見受けられます。

写真上が、皮脂でべたべたになったセーブルの編み込みマフラーです。下が綺麗にクリーニングされた状態です。上の写真の状態で使う気はしませんよね。

何かございましたら、遠慮なくお問い合わせくださいませ。

長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その6  その他

今日は、数回に分けて書いてきたなかで、さらに書き切れなく、一つのテーマとして書くほど長くもないという単発的なことをいくつか書いてみます。

 

毛皮の劣化やクリーニングについて、私が書いてきたことが正しいかどうかは、私自身も100%の確証はありません。
その理由は、毛皮の性質からいうと、毛と皮の両面から考える必要があり、学術的に正しいといってもそれが絶対とも言えないのが現実です。その理由は、毛皮自体に個体差があり、鞣し作業でも個体ごとに作業の差があったり、さらにはその後の保管状況によっても差が出たりと、あらゆる局面で差があることが、劣化やクリーニングに対してのそれぞれに考え方が違う要素になっています。
さらには、今現在の一般的な毛皮のクリーニングに使われているパウダークリーニングという手法も、もう何十年も前に、当時の専門家が考えた手法であり、その当時と今では、一年を通じての気温も違い、当時は毛皮の歴史も浅く今のように劣化した毛皮がたくさん出たということもないという、そんな時代と現在とでは、本来であれば考え方が変わってもいいはずですが、業界が小さいということもあり新しい考え方が出てくるほどでもないのかもしれません。

今回私が書いたことの証明が出来るとすれば、私自身が作った商品で見てもらうほかなく、劣化で言えば、私が納品したものが年数を経ても硬化したり劣化したりしないという、そのことでしか証明が出来ないという気の長い話になるのですが、そこは、これまで記載してきた記事を読んでいただき託してもらうしかないと考えています。

 

 

 

脂を抜く作業をたまにですが上手くいかず、抜き過ぎる場合もあります。そんな時には柔軟剤を皮に多めに入れてから再度有機溶剤とオガで脂を抜きなおすこともあります。その時に、柔軟剤を入れて皮を縦横に伸ばして皮の繊維に十分に柔軟剤が行きわたるようにします。繊維が縦に伸びている状態だと十分に細部まで柔軟剤がしみ込まないことがあります。このように手もみをして、この状態で再度ドライをします。これで、また柔らかさが戻ることがあります。絶対ではないのですが、もうダメかと思いながらもやり直してみる価値はあります。

 

 

オガに水分を含ませてドラム(回転式洗浄機)を長時間回すとドラムの中の温度が上がります。化学的なことはわかりませんが、オガが発酵のような状態になるのかもしれません。しかし、少量の水をオガに染み込ませることで毛に効果があるように感じます。例えば静電気防止剤や艶出しは水溶性液体で、これを水で薄めて使うのですが、水だけでやっても毛に少量の湿気が加わり、しっとりとして綺麗になります。ただし、水分が抜けていくときに一番繊細な毛の先がカールすることがあります。特にセーブルのような繊細な刺し毛を持っている素材の場合には起こりやすいのです。ですから、今は艶出しも静電気防止剤も使っていません。人間の髪の毛は少しオイリーなほうが良いと言われますが、毛皮は人間の髪の毛よりも何倍も細くて繊細です。ですから今は余計な薬品は使わずに仕上げています。
よく、ヌートリアのような抜き毛になったものをクリーニングに出すと毛がパサパサになって戻ってきてがっかりされるお客様がいらっしゃいますが、元々の状態に戻ったということなのです。クリーニング段階で何をすればそうなるのかわかりませんが、仮にあるとすればパウダークリーニングで有機溶剤系以外の水溶性の洗剤または艶出し等が使われると人間の髪の毛と同じで毛が僅かにウェーブがかかります。というか戻ります。元々ヌートリアのような抜き毛素材は、高温の回転アイロンで人間の髪の毛で言うストレートパーマをかけたような状態にして毛艶をだしていますので、水分が少しでも入ると毛は元に戻ります。パーマではなくドライヤーで髪を伸ばした状態なので水分を含むと縮れる性質なのです。そのためにヌートリアのような抜き毛素材はクリーニングに出して戻ってくると白っぽく艶のない状態になり、がっがりされることがあります。私もアトリエに回転アイロンがあり高温にしてヌートリアの毛を伸ばしますが、製品になったものは出来ません。理由は、毛を伸ばすためにアイロン部分を200度くらいか、それ以上に上げないと綺麗に毛が伸びません。しかも伸ばすために薬品を使うこともあります。クリーニングにくるものは商品になり裏地などが付いたカフスだったりコートに取り付けられたものがほとんどのため、裏地や他の生地を傷めるリスクが高過ぎて本格的に毛を伸ばす仕上げが出来ないのです。

 

 

毛皮につく匂いのほとんどが人間からつくものと、湿気から発生するカビ、そして香水です。女性の方は信じたくはないでしょうが匂いの発生元の多くは人間からなのです。クローゼットのなかは、ご自分では絶対に大丈夫だと思っていると思いますが、一回でも着たものをクローゼットに入れれば匂いは移ります。そしてそのなかで匂いが蓄積します。空調があるからといって安心もできません。洋服や毛皮を密着させた状態では部分的に湿気はたまって、カビの発生原因となるからです。
香水は、ご自分のものですから仕方ないとしてもカビは気になりますね。
ご本人は気付かれてないかもしれませんが、大半の毛皮コートにカビが生えています。ですから、よく保管中に不織布のカバーがかかった状態で倉庫に保管されているケースがあるかと思いますが、あれはかなり危険です。私のアトリエでも顧客のコートをクリーニングと保管を承ることがありますが、一番気を使うのが汚れではなく匂いです。コートを密着させれば不織布カバーでは絶対に匂いとカビは移ります。私のところは販売する商品もありますから、ものすごく神経を使います。
クリーニングにオガを使う理由は消臭効果もあります。有機溶剤で消臭効果が期待できるかどうかは分かりません。脂分が発生する匂いもあるので効果がないとは言えませんが、一番の効果はオガだと思います。私が使っているのはヒノキですが、詳しくはわかりませんがヒバとも言うようです。このヒノキのオガが消臭に効果があると感じます。最近使っている、家電のLGスタイラーというのがありますが、これも消臭効果が実際にあります。これはいつか別の記事で書きますが確かに消臭効果があります。強力な香水の匂いは難しいですが、軽い匂い程度であれば取れます。これは薬品やオガを使う訳ではないのですが、おそらく高温の蒸気が匂いを取るのだと推測しています

 

 

業者さんのやるパウダークリーニングとは何か変じゃないですか?パウダーという言葉の意味は、よく書かれているのはトウモロコシの芯を粉末にしてとか、皮に必要な油分を補充するとか? ありますね。それでは皮の脂分がどれほど不足しているんですか?裏地もとらず、皮を触りもせずにどうやって必要な油分を割り出すのですか?毛の栄養分?よくわかりませんよね。皮の必要な油分も毛の栄養剤も全て一回のパウダークリーニングという処理でやるのですか?汚れを取り除くのと栄養と油分を加えるのと一緒にするというのはかなり強引です。皮の油分を調整して足すなんてことも書かなきゃいいんです。だって裏地をとらずに毛の側からどうやって奥の皮まで必要な油分を補充するんですか?毛にも必要な栄養分をというなら先に汚れを落としてからでしょう。私はそう思います。人間用でリンスインシャンプーなんてありますが、毛皮は基本的に水洗いなんかできません。あれもこれも効果のありそうなことを書いてはありますが、全て一回のドラム処理では難しいと私は思います。毛皮の機械でグレージングマシンと言われている回転アイロンがあります。私も持っていますがセーブルやミンクの刺し毛の一番先の顕微鏡で見ないとわからないような細い毛先は、グレージングマシンを少し強くあてると毛先がわずかに切れてしまいます。毛皮が毛皮らしさを出している一番の部分です。毛先がバチっと切れてしまえば、フェイクファーと同じになってしまいます。特に危険なのは、クリーニング仕上げでコートになった状態でかけるのは、肩やエリというように凹凸があり、回転するアイロン部分が部分的に強くあたってしまい、毛切れの危険性があります。チンチラのように柔らかい毛は危険かというと柔らかすぎて切れないという結果が私のなかでは出ていますが、どちらにしてもグレージングマシンは危険があります。ただ作業をしている分には気が付きませんが、毛皮の本来の輝きを知っていれば、作業の結果からでる様々な違いに気が付くはずです。お客様受けしそうな文言を精一杯並べても、これは矛盾ががあるだろう、、、と私は感じています。私自身もネットという、この場所で競い合う場を作って書いているわけですが、日本製だとか、選りすぐりの職人が作るとか、、、書きたい放題書かれていますが、いつも自分も同じにならないようにと感じています。日本製だからいいのか?選りすぐりの職人とは誰が決めたんだ、、、といつも思います。クリーニングについては全てわかるわけではありません。しかし、少なくとも毛皮のことであれば分かります。ネットに出ている画像を見れば、どの程度の職人が作っているかなんて分かります。その度に、私も同じように見られないようにと記載する”言葉”にはいつも気を使います。

 

最後に一つ大事なことを書きます。私がオガを使ってドライ処理をするのは、リフォームや例えば裏地を交換するタイミングでやることです。裏地替えのときは普通は芯や付属は変えずに、ただ裏地だけを交換しますが、せっかく裏地を外すのであれば、出来れば費用は掛かりますが芯や付属を全て外して毛皮を毛と皮の両面から洗うことをお勧めします。もちろん、購入金額等とのバランスもありますが、セーブルや品質のよいミンクなどであれば価値はあると思います。

 

じゃあ、裏地がついたままのクリーニングはお前はどうするんだと質問が出るかもしれません。もちろん、シークレットですが、それにしても裏地を付けたまま、オガドラムなんて絶対にかけません。オガが裏地のなかに必ず入って取れませんから。正直、個体ごとにやることを考えないといけないのです。ドラムでたくさん回せば、カギホックや毛皮専用の留め具などをしっかりカバーしないとドラム回転中に裏地に傷がついたり、カギホックそのものの先が傷がついたりと難しいのです。私もネットに入れますが、それでも傷がつきます。よく、長い毛のもので留め具周辺の毛が切れていることがありますが、お客様が着用しただけでは、あそこまで切れないのです。ドラムにかけ、ドラムのなかの棚のような部分や蓋にあたって切れています。書き出すときりがないくらい諸々問題がでます。それをパーフェクトにクリアするのは一律の作業ではかなり難しいのです。もちろん、だからといってマニュアル化は否定しません。やるべきだと思います。やればどこかで出口が見つかるのかとも思います。私自身の作業もマニュアル化はしています。ただ、最初の段階では失敗の連続です。私自身もまだまだ全てが解決できていません。

 

今日は補足の寄せ集めみたいになりましたが、内容はそれぞれに大切だと感じることを記載しています。予定は2000字くらいでしたが4600字になってしまいました。申し訳ありません。
このブログが何百万人に一人でも、面白いと思って読んでもらい、ひとつでもお役に立てることがあれば嬉しいです。      長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その5  パショーネ編

今日は前回に続いてパショーネでやっているクリーニングと皮の劣化を防ぐ方法について追加で書いて見ます。

大きな設備(専門業者)でドライクリーニングをやる場合、想像ですが、例えば裏地を剥がした毛皮コートをドライクリーニングする場合に溶剤の量は多少関係すると感じています。例えば、溶剤の量が少ないと皮から溶け出した脂分が当然のことですが、溶剤が少なければ溶剤のなかの脂分の濃度は上がります(この濃度があがるということは、本来であれば有機溶剤に脂は溶けて脂分としての成分がなくなってしまう訳なので学術的にはあり得ない理屈なのですが、実際には私の想定していることが起こっていないと、毛のべた付きは起こらないと考えます)
。その結果何が起こるかというと毛皮の皮から溶け出した脂分が毛につきます。私がドライ加工依頼をして仕上がってきたものの3割は、私の基準では毛に脂分が付着した状態で乾燥仕上げが行われていました。当然のことですが、毛を触った感触はサラサラという感じではなく、少しベタっとして、私達の汚れた髪の毛のような感触になります。溶剤を節約した結果か、時間が短すぎるために、こうなるのかどうかはわかりません。でも、おそらくはそうであろうと思います。

コート一着をドライにかける時間は私にはわかりません。しかし、聞くところによると、そう長くはないらしいです。もちろんそのために脱脂効果の強いパークロロエチレンを使うわけですから当然と言えば当然なのです。

ただひとつ言えるのは短い時間になればなるほど調整は難しくなると感じます。もちろん大量の原皮をドライするなら量が増えることで効果の均一化は図れるのかもしれません。しかし、コート一点となると、どのくらいの時間と溶剤の量が必要なのかは逆に難しくなるとも言えます。

それでは、私がやっている方法はというと、脂分が強いものは直接、刷毛やブラシのようなもので溶剤を直接、皮裏面に染み込ませます。脂分が弱いものの場合には、オガ屑に溶剤を混ぜて、毛や皮面に間接的に溶剤を染み込ませます。

直接、皮に溶剤を染み込ませた方が当然ですが強い効果が得られます。コートを溶剤で濡らし、オガと一緒にドラムに入れます。この時のオガは、水洗い洗濯で言えいば水の役割になります。溶剤で溶け出した脂分をオガが吸収してくれるわけです。毛に付着した脂分も取ってくれます。ですから、オガの量イコール水の量になりますから、オガの量が節約して少なければ、どんなに有機溶剤で脂を溶かしても、脂分を取ることの効力は落ちることになります。一般的に加工業者さんが使うオガの量は鞣し業者さんに比べれば、かなり少ないのですが、それは加工段階でカットされたムダ毛を取り除くことが主たる目的だからです。しかし、クリーニングとなると目的が変わり、オガの量も当然変わります。オガの量イコール、水洗い洗濯で言えば水の量になるという意味はそういうことです。当然、水をケチってしまえば、濯ぎが足りないという状況になり、オガで言えば、せっかく有機溶剤で溶かした脂分を取り切れなくなるということになります。

それと、もうひとつ書くとすれば、オガと有機溶剤で取られた脂分も、この方法だと完璧ではありません。皮に厚みがあり、脂分を吸収するのが皮裏面からオガが付着して吸収するために、皮裏面の表面が、より強く脱脂されます。その結果何が起こるかというと、ドライした直後は皮の表面はカサカサして脂分が完全に抜けたようになりますが、時間の経過とともに、皮の奥(毛のある方)から少しずつ脂分が染み出て、皮裏の表面に移動し、結果として皮の脂分の状態が均一化します。

もちろん、これではもう少し脂分を抜きたいと思う状態のときもあり、その時は二回目のドライをすることになるのです。

確かに大変なのですが、この方法だと手間はかかりますが確実に脂分の量をコントロールできるのです。
クリーニング屋さんでやるドライクリーニングの意味は洗剤を同時に入れるとも聞いたことがありますが、主たる目的は汚れ落としです。毛皮の場合のドライクリーニングは鞣し工程で使った脂分を落とすことが目的です。その違いは言葉は同じでも大きな違いがあります。

ほとんど知られてはいませんが、脂分の量のコントロールは仕上がりの軽さや柔らかさに大きく影響し、さらには劣化という一番のリスクに対しても影響があるのです。どんなにデザインや綺麗な形を作ることに気を使っても、毛皮の持つ本来の魅力を引き出せない仕上がりでは、毛皮を生かしたとは言えません。

脂分の量が適切にコントロール出来れば、https://www.instagram.com/p/B18aNR2nj84/ この動画のように何年経っても、まったく硬さも劣化もなく綺麗な仕上がりを維持できるのです。もちろん、100年持つとは言えません。しかし、何もしない鞣しあがったままの脂分のコントロールされていないものから比べれば明らかに耐久性は出ると考えます。

もちろん、染色され、その途中工程でクロム鞣しという処理をしているものであれば、劣化のリスクはかなり軽減されていますが、染色屋さんが、リフォーム等の作業で染色された毛皮を再染色するときに再度、クロム鞣しをすることを考えればクロム鞣しの効果も永遠ではないということを証明しています。それとクロム鞣しがしてあっても脂分が多いことで湿気を吸いやすかったり、柔らかさが不足したりします。クロム鞣しが劣化に対しては有効であっても、軽さや毛のべたつきや柔らかさには効果を持たないということです。従って、毛皮の脂分のコントロールは品質面から考えても必要であると言えます。

単に、鞣し上がってきた原皮を何も考えずに使うのであれば、工賃は少なくて済むのです。
しかし、毛皮には必ず個体差や鞣し工程のなかで起こる不均一さというものがあります。
それを極力、皮を鋤いたり脂分をコントロールしたりして均一化することがガーメントには特に影響します。
わずかそれだけのことですが、手間は倍以上違うのです。ものづくり日本と日本製ということを一番に謳うなら、最低これくらいは考えてもの作りをする必要があると思います。

今日はこの辺で終わりにします。ごめんなさい、いつも過激になる一歩手前で書くことをやめてます💦

あと一回書くことがあるか考え、またアップします。     長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その4  パショーネ編

こんにちは。前回と少し間隔が短いですが、書き溜めてあったのでアップします。

今日は、私のところではどうやって劣化の間接的な原因となりやすい皮の脂分を抜いているのかを少しだけ説明します。

もう、30年以上前にアントレプレナーカレッジというところに半年通ったことがあって、そこにはいろんな仕事や起業をしようと思っている人たちがいて、たまたま同期にクリーニング屋さんが実家だったような友人がいました。丁度独立したばかりのころでしたが、その友人にドライクリーニングで使うターペンという石油系の溶剤を譲ってもらったことがあり、その溶剤をおが屑に混ぜてドラムという機械にコートをかけました。当時は何もしらずに使いましたが、多分規制がかかった溶剤なのかもしれません。ターペンはすごく石油の匂いがきつく、この石油の匂いが取れるのかと心配になるくらいきつい匂いでした。

ドラムとは毛皮の毛取をしたり柔らかくしたり、おが屑を入れてクリーニングに使ったりする機械ですが、私のドラムは八角形のドラムで網の蓋と密閉にするための蓋が四枚ずつついていて、密閉をしておが屑にターペンを混ぜて一日洗いました。
一日かけて、その後、網の蓋にかえて、おが屑を落とし、コートを綺麗な状態にします。

仕上ったときの感動は今も忘れません。それほど綺麗だったのです。柔らかさ、毛の本来の輝き、匂いも取れたりで、びっくりしました。

それから、30年かけていろいろ試して今の溶剤にたどり着きました。聞きたい人がいたらメールをください。ここには書きませんが教えます。以前も、何度か教えろとコメントを頂きましたが、名前もどこの誰かも名乗らずに、情報だけを教えろというひとがいましたが、それは無理ですから。

私達は専門業者ではないですし、パークロロエチレンを回収するような高額な設備もありませんから市販で買える規制のかからないものを使っています。

業者が何故人体にも影響のあるパークロロエチレンを使うがというと、脱脂の強さと乾燥のスピードです。仕事でやる以上、大事なことです。しかし、私達が自分で使う分には特にスピードは求めません。逆にいうと、その脱脂効果の弱さが少しずつ脂を抜けるということで私にとっては逆にコントロールしやすくメリットになっています。

パークロエチレンよりも脱脂効果が弱いということは、自分で抜きたい脂分の加減を調節しやすいということになるのです。
ただ、弱いと言っても、溶剤を手に付けるてティッシュ等でふき取ると手はカサカサになりますから、決して弱いというほどではありません。

前回か前々回にも書きましたが、パークロロエチレンでやると、脱脂効果が強いこともあり、私がやる何時間もかけて脂を抜くのではなく、一瞬のようなのです。逆に言うと望むレベルに脂が抜けたのか、または抜け過ぎたのかの判断はかなり難しいとも言えます。結果的に仕上がってみてから毛をチェックしてみて、皮の脂が溶剤に溶けて、その脂分が毛に逆についてしまうことが発生し、べたつきが出たりしますので仕上がりを見るしかないのです。これは、コートでも原皮でも同じでした。複数の鞣し屋さんや染色屋さんに出しても同じ悪い方の結果が出ることがあり、当時はその意味が解らず黙って受け入れることもありましたが今は、手間がかかっても自分でやることが出来るので納得いくまでやることができます。

ひとつ参考までに何故ドライクリーニングがいいのか?ということですが、もちろん汚れが落ちることや乾燥が早いことなどいくつかのメリットがあります。しかし、一番のメリットは多分ですが、形が崩れにくいことです。
ティッシュペーパーを有機溶剤と水の両方に付けてみると、その差は歴然とします。ティッシュペーパーを水につけるとすぐに組織が崩れてしまいます。形の維持が難しいのです。一方で有機溶剤に付けたティッシュペーパーは形が崩れません。

この原理を利用して毛皮でもパークロロエチレンを使うことによって、仕上がった完成品のようなものでも、大きく形を崩すことなくクリーニングができるのです。

今日のテーマはわたしのところでやるクリーニングでしたが、少しテーマから外れました。ごめんなさい。次回もう少し続きを書きます。

長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その3  専門業者は安心か?

今回のテーマは専門業者さんからクレームが来そうですが、とりあえず、分かることを書いてみます。

前回はドライ液で丸洗いすることを書いてみました。

私は、専門業者さんの工場に入ったことも、直接聞いたこともありません。しかし、大体の想像は付きます。
ただ、少し違っていたら、ごめんなさい。

毛皮コートは一般的には裏地がついて仕上がってしまうと、ドライの丸洗いは出来ません。というかしません。
少し余談ですが中国では日本国内で規制されている溶剤も、もしかしたら違反して使っているのかもしれませんが、おそらくですが、裏地がついて仕上がってから強いドライをかけてコートをクタクタに柔らかくしています。もちろん全てではありません。リスクが多少あるのと前回書いたようにドライクリーニングする機械が高額なので小さな工場ではドライができませんから、余程設備がしっかりしている工場だと想像がつきます。
ただし、この方法は効果はありますが、かなり乱暴です。ドライ溶剤でコートを作るとき伸び止めテープ等を使えば、そのテープの糊は溶けてしまい、中のテープは剥がれてしまいます。見えないだけで、コートのなかのテープは、あっちこっちはがれてしまっている状態です。でも、外側からは見えないからそれでも良しとする、いかにも中国らしい方法です。

話がそれましたが、毛皮の一般的なクリーニングでは専用のおが屑とパウダーとよばれるトウモロコシの実なのか芯の部分かはわかりませんが、粉にしたものと場合によっては有機溶剤を少し混ぜるようです。100%正確ではないかもしれません。ただし大きな違いはないはずです。

おが屑といってもヒノキ等の専用のもので、大きさも都度指定したものを使います。私はすごく細かいものと普通のものを混ぜて使っています。

この方法のメリットとデメリットを書いてみます。メリットは少量のドライ液がおが屑にしみ込み毛の表面や奥の方まで入り込み有機溶剤(ドライ液)がしみ込んだおが屑で脂分を溶かし、おが屑にしみ込ませます。さらにおが屑の表面にあるチャカチャカした部分で汚れをひっかけるようにして取り除くとも専門家のあいだでは言われています。この作業自体は毛にはとても効果はあると思います。ただ、一つだけダメだしをするとすれば、細かいおが屑が、裏地のまつりめからコートの中に入ってしまい、そのおが屑がコートの裾や袖口にたまってしまうのです。業者さんはエアーガンや掃除機で取り除くとは言っていますが、リフォーム時に裏地を剥がすと裾の見返し部分にたくさんのおが屑がたまっています。その量はコートごとに違いますが、ひどいものになると裾にかたまりになるほど入っているものもあり、これで仕事として成立するのかと思うほどです。

クリーニング業者さんが自分がクリーニングしたすべてのコートの裏地や付属を外して確認する訳ではないので、末端で作業するひとたちは指示に従うしかないことを考えると仕方ないのかなとも思います。

当然ですが、皮裏面まで有機溶剤が入ることはないので皮の劣化を止めることや皮面に染み込んだ匂いも取れることはないのです。
古い毛皮コートのかび臭い匂いは、毛についているだけではなく、その多くが皮に染み込んだ状態でついています。ですから毛の表面だけを洗っても匂いは全く取れません。

さらには業者さんのホームページでは、これもどこかで書いた記憶がありますが、最初のページではあれもできます。これも出来ますと書いてありますが、ページ最後のほうをみると、逆に、少しリスクがありそうなものは、あれも出来ません。これも出来ませんと記載があります。それくらい、毛皮のコートはリスクがあり深く入り込んだ作業はリスクが大きすぎてやれないということです。

次回は、私のところでやる方法を少しだけ書いてみます。      長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その2 脂を抜く方法

こんにちは。今日は前回の続きです。

まず、業者さんがやる方法を私が知る範囲で簡単に説明します。

以前はフロン系のものを使っていたと記憶します。しかし環境問題があり当然使用不可になりました。
現在はパーク(パークロロエチレン)というものを使用していると聞いています。一般的なドライクリーニングと同じだとも聞きます。ドライクリーニングでは様々な(石油系やフッ素系)ものが使われているらしいですが、ドライの溶剤が気化したものを再度液体に戻す装置が付いている、一台何千万もする装置がいるらしいです。さらに、クリーニング屋さんもそうかもしれませんが、届け出が必要であったりと簡単には使えません。

染色してあるものはクロム鞣しという処理がしてあり、水に漬け込んでも劣化しないということが解っているので、自分で洗濯機で専用の脱脂材を鞣し屋さんからいただき洗ったことがありますが、やはり、ドライ系溶剤のようには脂が落ちません。というか、ほとんど落ちないと言った方がいいくらいに変化はありません。

パークロロエチレンで専用の機械でドライクリーニングをした場合、私は何度も自分の作った裏地が付く前のコートや原皮を洗ってもらったことがありますが、時々、毛に脂が回ってべた付くような仕上がりになることもありました。皮から染み出た脂がパークに溶け出し、その僅かな脂が毛についてしまうことが原因だと想像できますが、さすがに業者さんは気が付きません。時間が短すぎるのか、溶剤が少ないせいかは分かりませんが、実際に何度もありました。気になるものは再度やり直しをしてもらったりと、当時は業者さんに、ずいぶんとわがままを言った記憶があります。私達の髪の毛でも皮脂が付いていないサラサラの状態と少しべた付いたときがあるように毛皮も同じです。それを感じ取れるかどうかは、普段から毛の良い状態を知っているかどうかにもよりますが、微妙な違いでもあり大きな違いでもあるのです。

以前、鞣し屋さんとも話したことがありますが、ドライをすることでほとんど劣化しないということで私達の意見は一致しました。

次回は私のところでやる毛皮クリーニングについて書いてみます。  長澤祐一