毛皮の正しい保管方法と劣化の意味
私がブログを開始して13年間、ずっと書き続けてきた毛皮の保管と毛皮の劣化について、やっと最終的な(現段階でですが)記載ができるようになりました。
私が保管で湿気を徹底して嫌う理由を下記に記載します。
興味のある方は読んてみてください。ただし、私は化学がまったくわかりませんので化学式のようなものはわかりません。間違いがあったらすみません。ただ、大まかな劣化の流れは間違っていないはずです。
簡単に説明すると 毛皮は通常、ミョウバン鞣しという手法で鞣されます。海外では同じことを指すかは不明ですがドレッシングと言います。衣服のように柔らかく仕上げるという意味らしいのです。
まず簡単に劣化の流れを書いてみます。
ミョウバン鞣しで使うカリウムミョウバンのなかにSO4硫酸イオン(硫酸根)というのかあるといわれます。
このカリウムミョウバンの段階では硫酸の性質はないと言われています。ところが、毛皮の皮が湿気を吸ったり濡れたりするとアルミニュウムカリウム(硫酸カリウムアルミニウム(ミョウバン))が一部解けてイオン化します(イオン化の詳細は省きます)。
このように湿ったり濡れたりしてイオン化したときにSO42マイナスというイオンがでます。このイオンだけでは硫酸として機能しません。
しかし、吸い込んだ水から、ほんの一部が微量な量の 水素イオン「H+」とOH-(水酸化物イオン)に分かれるのがごく一部あり、それがイオン化します。水素イオン「H+」と、このSO42マイナス硫酸イオンが両方存在するとh2SO4、ようするに硫酸になります。
この量はほんとに微量なのですが、毛皮の長期に保管状態の悪さが重なることで、少しずつ増えて、さらにそれが乾燥することで濃縮されて、濃い硫酸になり、それが皮の組織を痛める原因となります。
もともと鞣しとは、詳しくは書けませんが、アミノ酸とアミノ酸の間にアルミが入って組織をつないでいるらしいのです。その過剰結合にって生皮でないという、いわゆる鞣されたという状態になり、生皮が安定した状態になります。
今回のテーマの毛皮の皮の劣化とは、その過剰結合を硫酸によって切られてしまった状態のことを言います。
そのことで本来であれば皮を指で引っ張ったりすると伸びる皮本来の伸びる性質をなくし、紙またはボール紙のようになってしまうという状態になるのです。
劣化が進む条件としては、温度が高い、湿度が高い、例えば梅雨の時期などは最も危険です。諸外国で言えば、砂漠のような地域では劣化はしないと言えます。
私が、これまで散々湿気が湿気が、、と毛皮の保管のことで書いてきた意味がここにあります。
湿気が直接劣化を促進させる訳ではないのですが、湿気が入り、それが乾いて、また湿気が入るというように湿気が出入りを繰り返すことで、硫酸が蓄積していき皮の繊維結合を切ることになり劣化という症状がでます。
そのために、湿気を呼び込みやすい鞣し時に入る脂を極力鞣し屋さんに依頼して取り除いたり、自分でも使用制限のない弱めの有機溶剤とオガを混ぜてドラムに長時間かけてゆっくり脂を抜く作業をしたりとこだわってきたのです。
皮から不必要な脂を抜くことで湿気を吸収しにくい皮の性質にして、保管時に空気中の湿気が入らないようにしたりするのです。
しかし、着用する以上空気に触れないようにすることは出来ません。極力、長期間空気の出入りと出入りの回数を制限するしかないのです。乾燥している冬場は問題ないと考えていますが、梅雨から夏にかけては毛皮にとっては危険な時期になりますので、その時だけでも適切な保管方法があればと考えてきました。
最終的にどうしようと考えた結果、市販の圧縮袋で、空気を抜かずに保管するという方法です。意地悪な意見があるとすれば、袋に入ってる空気を抜かなければと反論がでそうですが、実際に袋に入る空気の中に入っている湿気の量は、おそらく微量で、その空気の量で毛皮が突然劣化するとは考えにくく、袋に入っている湿気は真夏時でも、一度毛皮コートを入れたら湿度は変わらないことは実験済です。ですから、できるだけ湿度の少ない時期にパックに入れる方がパックの中の湿度は低くなるということです。
今は、これが一番ベターな方法だと考えています。パックから空気を抜いてしまうと、毛皮コートがぺしゃんこになり、着用時に毛や皮が戻るまでに時間がかかり、毛の癖をとったりする必要がでます。このブログにもたくさんの方が、毛皮の毛癖直しで検索で入って来られます。それくらいお客様にとっては、シーズン直前の毛癖取は重要な問題なのです。
ですから、私はパックの空気を抜く必要はないと考えています。仮にこの方法で劣化が起きたとしたら、すでにお持ちの毛皮の劣化が進んでしまっていたということです。
是非一度上に書いた方法を試してみてください。すでに劣化しているものは劣化の症状が出るかもしれませんが、私が提案した方法で劣化がさらに進むことはないはずです。
不安な方は、いつでもお問い合わせくださいませ。
長澤祐一
最後に一番劣化しないようにするには、クロム鞣しをしてしまうことです。クロム鞣しをするということは、アルミで結合したドレッシングのように簡単に結合を切られてしまうことがないのです。但しドレッシングよりも少しだけ硬さがでたり、毛にクロム汚染によってグレーっぽい青味がつきます。真っ白のような原皮は少し目立つのと、クロムによる硬さやコストが高くつくなどの問題がでますので、すべての素材に適応するわけでもないのです。
但し、本来のドレッシングが一般のミンクなどと比べ脂が多めのため劣化しやすいチンチラには有効だったりします。もちろんコスト高にはなりますが、お客様のことを考えればするべきだろうと考えています。
ですから、当社では湿気を吸いやすい鞣しのチンチラなどはクロム鞣しをしているのです。