毛皮の正しい保管方法と劣化の意味

私がブログを開始して13年間、ずっと書き続けてきた毛皮の保管と毛皮の劣化について、やっと最終的な(現段階でですが)記載ができるようになりました。

私が保管で湿気を徹底して嫌う理由を下記に記載します。

興味のある方は読んてみてください。ただし、私は化学がまったくわかりませんので化学式のようなものはわかりません。間違いがあったらすみません。ただ、大まかな劣化の流れは間違っていないはずです。

簡単に説明すると 毛皮は通常、ミョウバン鞣しという手法で鞣されます。海外では同じことを指すかは不明ですがドレッシングと言います。衣服のように柔らかく仕上げるという意味らしいのです。

まず簡単に劣化の流れを書いてみます。

ミョウバン鞣しで使うカリウムミョウバンのなかにSO4硫酸イオン(硫酸根)というのかあるといわれます。

このカリウムミョウバンの段階では硫酸の性質はないと言われています。ところが、毛皮の皮が湿気を吸ったり濡れたりするとアルミニュウムカリウム(硫酸カリウムアルミニウム(ミョウバン))が一部解けてイオン化します(イオン化の詳細は省きます)。

このように湿ったり濡れたりしてイオン化したときにSO42マイナスというイオンがでます。このイオンだけでは硫酸として機能しません。

しかし、吸い込んだ水から、ほんの一部が微量な量の 水素イオン「H+」とOH-(水酸化物イオン)に分かれるのがごく一部あり、それがイオン化します。水素イオン「H+」と、このSO42マイナス硫酸イオンが両方存在するとh2SO4、ようするに硫酸になります。

この量はほんとに微量なのですが、毛皮の長期に保管状態の悪さが重なることで、少しずつ増えて、さらにそれが乾燥することで濃縮されて、濃い硫酸になり、それが皮の組織を痛める原因となります。

もともと鞣しとは、詳しくは書けませんが、アミノ酸とアミノ酸の間にアルミが入って組織をつないでいるらしいのです。その過剰結合にって生皮でないという、いわゆる鞣されたという状態になり、生皮が安定した状態になります。

今回のテーマの毛皮の皮の劣化とは、その過剰結合を硫酸によって切られてしまった状態のことを言います。

そのことで本来であれば皮を指で引っ張ったりすると伸びる皮本来の伸びる性質をなくし、紙またはボール紙のようになってしまうという状態になるのです。

劣化が進む条件としては、温度が高い、湿度が高い、例えば梅雨の時期などは最も危険です。諸外国で言えば、砂漠のような地域では劣化はしないと言えます。

私が、これまで散々湿気が湿気が、、と毛皮の保管のことで書いてきた意味がここにあります。

湿気が直接劣化を促進させる訳ではないのですが、湿気が入り、それが乾いて、また湿気が入るというように湿気が出入りを繰り返すことで、硫酸が蓄積していき皮の繊維結合を切ることになり劣化という症状がでます。

そのために、湿気を呼び込みやすい鞣し時に入る脂を極力鞣し屋さんに依頼して取り除いたり、自分でも使用制限のない弱めの有機溶剤とオガを混ぜてドラムに長時間かけてゆっくり脂を抜く作業をしたりとこだわってきたのです。

皮から不必要な脂を抜くことで湿気を吸収しにくい皮の性質にして、保管時に空気中の湿気が入らないようにしたりするのです。

しかし、着用する以上空気に触れないようにすることは出来ません。極力、長期間空気の出入りと出入りの回数を制限するしかないのです。乾燥している冬場は問題ないと考えていますが、梅雨から夏にかけては毛皮にとっては危険な時期になりますので、その時だけでも適切な保管方法があればと考えてきました。

最終的にどうしようと考えた結果、市販の圧縮袋で、空気を抜かずに保管するという方法です。意地悪な意見があるとすれば、袋に入ってる空気を抜かなければと反論がでそうですが、実際に袋に入る空気の中に入っている湿気の量は、おそらく微量で、その空気の量で毛皮が突然劣化するとは考えにくく、袋に入っている湿気は真夏時でも、一度毛皮コートを入れたら湿度は変わらないことは実験済です。ですから、できるだけ湿度の少ない時期にパックに入れる方がパックの中の湿度は低くなるということです。

今は、これが一番ベターな方法だと考えています。パックから空気を抜いてしまうと、毛皮コートがぺしゃんこになり、着用時に毛や皮が戻るまでに時間がかかり、毛の癖をとったりする必要がでます。このブログにもたくさんの方が、毛皮の毛癖直しで検索で入って来られます。それくらいお客様にとっては、シーズン直前の毛癖取は重要な問題なのです。

ですから、私はパックの空気を抜く必要はないと考えています。仮にこの方法で劣化が起きたとしたら、すでにお持ちの毛皮の劣化が進んでしまっていたということです。

是非一度上に書いた方法を試してみてください。すでに劣化しているものは劣化の症状が出るかもしれませんが、私が提案した方法で劣化がさらに進むことはないはずです。

不安な方は、いつでもお問い合わせくださいませ。

長澤祐一

最後に一番劣化しないようにするには、クロム鞣しをしてしまうことです。クロム鞣しをするということは、アルミで結合したドレッシングのように簡単に結合を切られてしまうことがないのです。但しドレッシングよりも少しだけ硬さがでたり、毛にクロム汚染によってグレーっぽい青味がつきます。真っ白のような原皮は少し目立つのと、クロムによる硬さやコストが高くつくなどの問題がでますので、すべての素材に適応するわけでもないのです。

但し、本来のドレッシングが一般のミンクなどと比べ脂が多めのため劣化しやすいチンチラには有効だったりします。もちろんコスト高にはなりますが、お客様のことを考えればするべきだろうと考えています。

ですから、当社では湿気を吸いやすい鞣しのチンチラなどはクロム鞣しをしているのです。

毛皮の劣化を防ぐ 食塩水(3%)を使う その効果とは、

劣化に関する最新記事をアップ致しました。是非見てください。https://www.passione.co.jp/blog/%e6%af%9b%e7%9a%ae%e3%81%ae%e6%ad%a3%e3%81%97%e3%81%84%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%81%a8%e5%8a%a3%e5%8c%96%e3%81%ae%e6%84%8f%e5%91%b3/

今日は、劣化を防ぐ方法の一つとしてプロの間で使われている食塩水について書いてみます。

鞣し加工時に食塩水が使われているのはプロの間では当たり前のこととして言われています。

私も何度か劣化を防ぐための処置として加工段階で食塩水を使ったことがありますが、結果はあまりよくありませんでした。やはり、鞣し加工の初期の段階で使うのはよしとして、それ以外の段階で食塩水を使うのはダメだろうなと感じています。

その理由は、加工段階で食塩水を使うと理由はわかりませんが、塩分を含んだ皮が空気中の水分を吸収しやすくなるのです。

そのため皮がわずかですが重くなったような気もして湿気のせいで皮の柔らかさも少しなくなるように感じるのです。

毛皮の皮にとっても水分は、ある意味大敵なのです。水分が含まれると皮がなぜか硬化し、あくまで私の感覚ですが酸化が進むような気がします。これが劣化につながると想像しています。もちろん根拠などありませんが、長い間、毛皮の皮を見てきて出てきた私独自の結論です。

よく、毛皮を洗剤入りで水につけて洗うというような記事がありますね。ウォータークリーニングとかいう解説でYouTube等でときどき見かけますが、辛うじて悲惨にならない理由は、たまたまフォックス等の襟巻で毛皮の皮まで水が浸み込まないで済んだか、たまたま毛皮マフラーが染色してありクロム鞣しという水が浸み込んでも良い状態であったからという理由でウォータークリーニングができると間違った解説がしてあるものが多いので気を付けてください。はっきりいってYouTubeでの毛皮の記載は、ビュー数を稼ごうとするためのインパクトを狙ったものが多すぎるのです。

毛皮にはもともと水を跳ね返す力があり、簡単には水が浸透しません。そのため例えば毛糸を染色するときに浸透剤を使って水を浸み込ませますが毛皮も同じで簡単に水が浸み込みません。

ごめんなさい。最後は劣化とは関係のないところに行きましたが、まとめると湿気は劣化に大きく影響し、鞣し時に良いとされる塩分も最終的な加工時点、または仕上がり時点では入らないほうが良いと感じます。

長澤 祐一

毛皮のご自宅での簡易的な保管

劣化に関する最新記事をアップ致しました。是非見てください。https://www.passione.co.jp/blog/%e6%af%9b%e7%9a%ae%e3%81%ae%e6%ad%a3%e3%81%97%e3%81%84%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%81%a8%e5%8a%a3%e5%8c%96%e3%81%ae%e6%84%8f%e5%91%b3/

今日、毛皮コートの肩焼け直しとクリーニングでご来店を頂きました。お客様、ありがとうございました。

このブログをたくさん読んでいただいているようでとても嬉しかったです。

数年前から、試みていることがあります。毛皮の保管についてです。

今日のお客様の問題の肩焼けやクリーニングも本来、適切な最低限の保管方法でされていれば必要のない処置なのかもしれません。

よくこのブログでクリーニングのことでお悩みのお客様がいらっしゃいます。

しかしです。そもそもの保管がダメなんだろうなと思うケースがほとんどです。

毛皮は水洗いは出来ません。ドライクリーニングも基本ダメです。

ドライ = 有機溶剤 ですが、プロが使う有機溶剤は毛皮には強すぎます。私は有機溶剤を使ってクリーニングもしますが、オガ屑に混ぜて使いますので強さは軽減されます。

ドライクリーニングだと毛皮の皮に含む脂分がすべて抜けてしまいます。

普通のプロの間では、毛皮には適度な脂分が必要ですとよく言われますが、巷にあるクリーニング屋さんのホームページ等にある記載されている適度な?は私の意見では脂分が強すぎるのです。綺麗!と思わず言わせることもできない業者のいうことなど充てになりません。ごめんなさい。

皮に脂分が強すぎると空気中の湿気をスポンジのように吸収し、その水が皮のなかで酸化します。そうすると、当然ですが皮も酸化して少しずつ匂いも発生します。

 ご家庭での保管方法をお勧めすることで業者さんの仕事を奪うわけではないですが、業者さんのクリーニング・保管などで、これはいいな!ここはちゃんと毛皮を知っているな!と思う記載をしているところ、ほぼありません。

毛皮の本来の魅力を引き出すことを知らないと、結局、どんな薬品を使ってもどんな機械を使ってもクリーニングは出来ないのです。

話それました。ご自宅での保管の話に戻ります。ここ数年試しているものがあります。以前、脱酸素剤を使ったパックがありました。最近は掃除機等で空気を抜く衣類の保管パックがありますが、このパックを使って原皮や商品を夏場の湿度の高い時期に保管をしています。

結果はかなり良いです。パックの中に毛皮を入れて、その中に湿度・温度計を入れて保管してみました。

温度は室内の温度に影響を受けますが、湿度は一度パックをして掃除機で空気を抜くと、湿度変化はまったく起こらないのです。

それはどういうことを意味するかというと、空気が出入りしないことで、割りに安定した状態をキープできるのだということが証明できます。どこかで書きましたが、空気が何度も出入りすることで、その都度新しい湿気が入り、その都度酸化が進むと想像ができます。

しかし、保管パックに入れて一度空気を抜くと、その湿気の出入りは一旦遮断され、そこで極端な酸化の進行は止まるという仮説が出来るのです。

ひとつ問題があるとすれば、空気を抜くとコートがぺしゃんこになり毛や皮に癖がつきます。

ただし、これは着用前やシーズン直前にパックから出して新しい空気に触れると自然に風合いは戻ります。

私の経験だと、パックから空気を抜かなくとも、一度パックに入ると湿度はまったく変化しないことがテストしてわかりましたので、空気を抜かなくても、ご自宅保管ということを考えればかなり有効だと感じるのです。

もちろん、私が保証をすることはできませんが、特にこれといって、ご自分での保管方法が見当たらない方は一度試しても良いと思います。

ご自宅保管で一番悪いのは、極悪環境で長期にわたって何年も保管することです。

今はご自宅に空気清浄機やエアコンのついた大き目なクローゼットをお持ちの方もいらっしゃいますが、一度でも着用したコートやジャケット等と一緒に保管したら必ず匂い等がつき、さらに、どうしても奥に行きがちな毛皮コートは湿気がたまりやすく、どんなに豪華なクローゼットでも私なら安心できません。

クローゼットの端から端まで同じ温度・湿度なら問題はありませんが、それはどんなに豪華なクローゼットでも無理です。そのため出来れば、毛皮と他の衣類との間隔を十分に開ける工夫が必要です。 それが無理なら掃除機で空気を抜き取るタイプのパックを使い、空気を入れたままの保管をお勧めします。毛皮に癖がつかない程度に空気を抜き、その状態で保管が一番望ましいと考えます。

20年在籍していた百貨店時代にもいろんな劣化等の問題を抱えましたが、例えば大き目の保管倉庫で保管していても、エアコンの吹き出し口が例えば天井にあった場合などだと、二段掛けしてある上のコートの肩に吹き出し口から出る湿気を含んだ空気が肩にあたり、他の部分より早く劣化したりと、一見万全のような保管倉庫でも、まったく安心できないという経験がありました。

そういう意味では、単独の保管パックで密封状態での保管は、私は有効だと感じます。

但し、保管パックの使いまわしはやめてください。毎年新しいものに替える必要はないとおもいますが、使いまわしすると、匂はカビが移る可能性がゼロではありません。一つの保管袋に対してひとつの毛皮をいれてください。

今日は、なんかダラダラと書きたいように書きましたが、業者の意味不明なクリーニングや保管に依頼するよりも効果的な保管ができるかと思います。

業者さんを否定して悪いですが、毛皮の匂いでひとつ大きなものはカビの匂いです。香水やショウノウのようなものも多いですが、以外に気が付かないのがカビの匂いです。

カビは通常のクリーニングでは絶対に落ちませんから。落ちた気がしてるだけです。カビは皮自体に生えます。通常のクリーニングは毛の表面しか洗えません。そして、仕上がったと言われる毛皮コートを何百着も一カ所で保管します。当然ですが、カビ、匂い等が移るリスクは高いのです。

そう考えると、ご自宅保管も決して悪くないと最近考えています。もちろん、理にかなった状態でですが。

それと、最後にもう一つですが、空気を抜けるタイプの密封タイプの袋に入れるときにハンガーにかけたコートの上に黒やその他の光を多少でも遮断できる薄い生地、例えば大き目のスカーフ等を掛けてもらうと、当然ですが色焼けしにくいです。ただし、未使用またはクリーニングしてあるものに限ります。一度使ったスカーフなどは香水がつきます。これだけは厳禁です。この状態で保管するとかなりレベルの高い保管ができます。一度試してみてください。

長澤祐一

チンチラ 劣化 その2

劣化に関する最新記事をアップ致しました。是非見てください。https://www.passione.co.jp/blog/%e6%af%9b%e7%9a%ae%e3%81%ae%e6%ad%a3%e3%81%97%e3%81%84%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%81%a8%e5%8a%a3%e5%8c%96%e3%81%ae%e6%84%8f%e5%91%b3/

このブログでも劣化についてはたくさん書いてきていますが、一般的な毛皮素材のなかで一番多いのがチンチラだと思います。

ヌートリアも劣化しやすいですがチンチラほど素材として一般的ではありませんのでチンチラについて、再度違う視点で書いてみます。

昨年、ナンタケットバスケットのトリミングを作ろうと思って、友人の知り合いの方からナンタケットバスケットと別売されているファートリミングをお借りしました。

販売したメーカーは有名なところで、フローラル・・・・ というところです。

チンチラは毛が3cほどあるので分かりにくいのですが、接ぎ目で5個所以上破れていました。ということは半分の接ぎ目が切れていたということです。

以前、ブログのどこかで記載していますが、チンチラでもクロム鞣しや薄い芯を貼れば簡単に切れることはありません。

今回のチンチラトリムははっきり言って論外というほど酷い作りでした。

元々チンチラは弱い素材ですが、それにしてもそうそう切れるものではありません。しかし、今回のものは半分の接ぎ目が切れてしまっていました。チンチラの皮が劣化してしまっていることと、補強の芯がまったく形だけで効いてないことが原因です。

さらに、正しい作り方などないのですが、それでも、ドラムという機械(乾燥機のようなもの)にかけて柔らかくしてから綿や裏地をつけるという作業をしていれば、多少の使用で切れることはありません。

お買いになられて、想像ですが仮に6年くらい経っていたとしても、こんなに簡単に縫い目のところで切れることはないのです。

あるとすれば、古い材料を使ったために加工する前から原皮が劣化していて、それを感じて知っていながら作成してしまったというような場合でしょう。このチンチラトリミングを修理するときに中を開きましたが、既に部分劣化ではなく皮全体が劣化していて接着芯はほとんど剥がれてしまっていました。

こうなるとどんなに慎重に作業をしても紙を縫い針で縫うようなもので、針穴からさらに切れてしまいます。

本来、作り手が気が付くはずですが、経験が不足していたり、高額なチンチラ素材を無駄にしたくないということで、無理に仕上げてしまうというようなことが起こりがちなのです。

そんなことでチンチラは弱い、というイメージがついてしまいます。

しかし、正しい扱い方をすればそれほど弱いという素材ではありません。もちろん、強い力には弱いですが劣化したチンチラとはまったく違います。

少し補足しますが、チンチラがもともと切れやすい弱い素材というイメージからか一般的なチンチラの鞣しは脂分が多く含まれているのです。一見、その方が柔らかく感じます。

しかし、この脂分が空気中の水分を吸収してしまい、皮に含まれてしまった水分が酸化して劣化するように感じます。

しかし、唯一デンマーク産のチンチラだけは皮の表面がカサカサして乾いていて、私の見解では逆に劣化しにくいと感じます。デンマーク産以外のものは時々ですが、仕入れたバンドルの状態で劣化しているチンチラがあります。

それくらい、チンチラは毛も繊細ですが、皮も繊細なのです。

お客様のためにできることというと、クロム鞣しをして劣化を少しでも止めることですが、それでもパーフェクトではありません。しかし、やらないよりは圧倒的に良いのです。

しかし、染色ではクロム鞣しは必然的にやりますが、ナチュラルな色ではコストをかけてやることはなく、そのクロム鞣しの重要性を知ってやっているところは、国内ではわたしのところと、ふぉく、、、ー  さんだけです。

ひとつ解説しますが、染色したものは染色のために耐熱処理のクロム鞣しが施されているという意味ですが、毛皮の染色は60度くらいのお湯につけて染色をしますので、通常の皮だと、縮んでしまい固くなって使い物にならなくなります。そのために耐熱処理をクロム鞣しという加工でしています。

これが、劣化防止の効果も生んでいるのです。

今日はチンチラの劣化に特化して記載しましたが、次回は、劣化そのものについて記載してみます。

長澤祐一

毛皮コートの肩の色焼け料金

こんにちは、今日は数回前に毛皮コートの色焼けのお直しについて料金の結果が出ましたので報告致します。結果が安定したことと、作業時間もほぼ読めるようになりましたので金額を出してみます。

三回ほど前のブログで、肩焼け等の色の修正は、お客様との仕上がりに対する感じ方の違いという不安があり、仕事として受けるにはとても難しいと記載していましたが、処方を何度も見直し、結果の精度が上がりましたので初めて記載します。

金額はもちろんすべて一律ではありませんが、以前はものによってお直し金額に大きな差がありましたが、技術が安定し料金も 18,000円 から25,000円税別くらいの範囲でできるようになりました。

肩焼けの度合いによって多少差がでますが、それは酷い色焼けのときはどうしても手間が増えてしまうのでどうしようもありません。ただ、これまでよりは技術が安定し料金も確定しやすくなったのです。

もし、肩の色焼けが気になるお客様がいらっしゃいましたら一度問い合わせをお願いいたします。

これまでよりも格段に技術が進歩し仕上がりの安定感が増し、ようやく価格設定ができるようになりました。  長澤祐一

毛皮の黄ばみ取りと肩の色焼けについて

久しぶりの投稿です。

もう何十年もこの毛皮の仕事をやってきて、なかなか解決できなかったことがあります。

今日のタイトルにある、白っぽい毛皮の黄ばみを直すことと、古いコートによく見られる肩やエリの変色です。

ここ三年くらい、染色を自分でやってきてようやく染色そのものの理屈がわかってきて、ここ二年くらい黄ばみ取りを勉強していました。

以前、インスタグラムでロシアのユーザーがサファイアミンクやシルバーフォックスの黄ばみ取りをしている投稿があり、お互いにフォローバックし合っていたこともあり、その薬品を教えてもらうことができたのです。さっそく、ロシアの業者に手配してウクライナ戦争が始まる前に手配して入手しました。

その薬品を仕入れてビデオを送ってもらっても、なかなか信用出来ずに使えなかったのです。

しかし、染色技術そのものを勉強したことで、以前送ってもらった動画の意味や薬品の使い方が理解できたのです。

今日の投稿では黄ばみ取りについて少しだけ解説してみます。

ロシアでやられていた黄ばみ取りは、実際には黄ばみを取るというよりも、青みを付けて黄ばみを消すという手法です。ですから、例えばサファイアミンクやブルーアイリスミンクのような青みのある素材には有効です。しかしホワイトミンクのような、真っ白のものが黄ばんだ場合は難しいのです。

ホワイトミンクについて少し解説しますが、もともとのホワイトミンクは完璧な白ではありません。特に現在の鞣し上がりのものは、ブリーチ処理をしてからホワイトニングと呼ばれる青みをつけるような処理がされています。詳しくはわかりませんが蛍光色のようなものかもしれません。

そのため現在のホワイトミンクは外でみるのと太陽光で見るのとではかなり発色の違いがあります。太陽光の下でみるほうが綺麗です。

ホワイトと言っても、このように加工処理された白ですので、黄ばんだものを直すのも難しさがあります。

ですから現時点でホワイトミンクやホワイトフォックスの黄ばみ取りは難しいのかもしれません。少しだけ青っぽくして黄ばみを消すという手法しかありませんが、真っ白ではないのです。

下に画像も載せますが、サファイアミンクやブルーアイリスミンクのもともと少し青みのある素材に青みを足すという手法は有効です。

以前、やはりロシアの業者さんなのですが、バイオクリーニングという手法でクリーニングして白さを取り戻すという動画や写真をみたことがありますが、それはまだ私には解明できていません。

例えば、国内でも販売されている5クリーンという洗剤のようは漂白剤のようなものが市販されていますが、バイオ?酵素?の力(よくわかっていません)で白さを取り戻すことを目的とした毛皮専用の薬剤があるのかもしれません。

そのバイオクリーニングをした状態で黄ばみを取ってから青みを付けると新品のような白さになるのかもしれません。

ただし、鞣し屋さんがやるブルーイングは蛍光剤のようなものらしく、ただ青味をつけるのとは違いがあるのかもしれません。

今日の本題の黄ばみ取りについて少しだけ解説しますが、毛皮の染色には酸性染料を使ったものと酸化染料を使ったものがありますが、今回私がやった黄ばみ取りは黄ばみを取るというより、サファイアミンクなどのもともとあった綺麗な青味を足して黄ばみを消すという手法です。

染料は酸性染料を使っています。酸性にすることにより染料が素材に着色しやすくするというものです。但し、ここで難しいのは通常の染色はお湯のなかで60度くらいで染めてますので原皮の状態で染色されています。

毛皮クリーニングもそうですが、今回の難しさはすでに商品化されたものの染色をするというところにあります。

通常は、染色浴のなかにギ酸を加え染料を入れて色を付けますが、その手法ができません。ですから、濃い色の染色は難しいのですが、うっすらと青味を加えるということに限っては出来るのです。

今現在は、なかなか毛皮を着用していただくことも少なくなりましたが、毛皮の状態もよく色だけ黄ばんだものならば黄ばみ取りが可能です。料金は、素材の状態によりますので一度現物の確認が必要になります。適当なことは言えませんので、一度お問い合わせください。素材の状態によっては無理なもの、費用をかけても本来の価値に戻せないものもあります。明確に回答できず申し訳ありません。

写真の右側がもとの黄ばんだ状態で、左側が黄ばみを取った状態です。

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次回は肩の色焼けについて書いてみます。

有機溶剤で脂分が気化するということ

新年明けましておめでとうございます。投稿が二か月半くらい空きました。

今年の受注は難しいものが多く、なかなかブログを書く気分になりませんでした。

ブログのタイトルはいろいろと書き溜めていたのですが、また毛皮のクリーニングのことになってしまいます。

毛皮の皮と毛を洗うのに有機溶剤を使うことは、このブログで散々書いてきました。毛皮の汚れや脂を有機溶剤で溶かしてオガに吸収させて汚れや脂を取り除くこともたくさん書いています。

おが屑に汚れを染みこませて汚れを取るという理屈は確かによくわかるのですが、それでも本当にそれだけか?とずっとすっきりしませんでした。

もともと自動車のブレーキ部分等も有機溶剤で洗い流すのですが、というか、パーツクリーナーとかいう一般に売られている缶スプレーのものにはそう書いてありますが、ほんとうのところはわかりません。

以前、家庭用洗濯のソフターの水分を抜くとどうなるかを試したことがあります。ブログでもどこかで書いたかもです。

ソフターを脂っこいタイプとサラッとしたタイプをビニ版の上に少量たらして水分が抜けるまで待つとべたべたしたタイプと石鹸のようにサラッとしたタイプがあります。毛皮用の柔軟剤にもシリコン系のサラッとしたものと、乾いてもべたつくタイプがあり、効果がそれぞれに違います。

よく、クリーニング屋さんまたは、和服のクリーニング屋さんが毛皮をアイロン蒸気で縮ませてしまって、修復依頼をうけますが、その時には少し強めの後者の柔軟剤をつかいますが、都度リスクがあり簡単ではありません。

話を元に戻しますが、有機溶剤で溶け出した汚れや脂の全てがオガに吸収されるのだろうか?といつも疑問に思っていました。

もしかしたら汚れはオガに吸収されたにしても、脂はもしかしたら有機溶剤で溶かされて半分くらいは気化してしまうのかと、ずっと考えていたのです。

完全にその理屈は立証できてなく、それを証明するような化学的な知識もないのですが、ひとつだけ実証できるものがあります。

毛皮に使われている脂に脂というのか油というのかはわかりませんが、毛皮の繊維に吸収されるということを考えれば脂ということなのかと想像し、現実に使われている毛皮用の柔軟剤も水溶性であることから、あぶらとは脂なのだろうと考え、その脂を抜くにはどうするのか?と考えると有機溶剤が思いつくわけで、ただ、身体の脂も実際は油のようにも感じたりと私には難しすぎる課題でした。

ただ、最近少しだけ解決したことがあります。

例えば、肌の汗汚れが付いた部分に有機溶剤を付けるとどうなるのか?を考えてみてください。

何か布やティッシュペーパーで拭き取れば、カサカサに白っぽくなります。完全に皮脂が飛んでしまった証拠です。

じゃあ、拭き取らなかったら皮脂は有機溶剤で溶けただけで、肌に残るのか?と仮説を立てて試しました。

結果は何かで拭き取ったほど、白くカサカサに肌がなりません。しかし、半分くらいの油分は無くなってサラサラした状態になります。カサカサではないですが、そこそこサラサラになります。べたつきは大分取れます。

こうして考えると毛皮に染みこんだ有機溶剤が脂を溶かし、その半分くらいは気化するのか?という考えも、まんざら私が勝手に作った嘘ではなさそうなのです。

実際に手に柔軟剤を少量ですが、付着させて有機溶剤を付けると、何もしなくても乾くと、最初よりは柔軟剤はなくなっています。

例えば、毛皮の皮面に有機溶剤を大量にしみ込ませると、大きな輪染みになり輪染みの真ん中は脂が抜け、輪染みの端は柔軟剤が溶けて端によったために黄色くなります。

輪染みの真ん中は真っ白になりカサカサに皮も硬くなります。柔軟剤がぬけたことを意味します。

こんないくつかの検証をするなかで、もしかしたら汚れは溶けてオガに吸収され、脂分の何割かはオガに吸収され、さらにその何割かは気化したと考えられそうなのです。

そのことを裏付けることになるかどうかはわかりませんが、オガと有機溶剤でクリーニングした際に、途中、例えば一日くらいで出してしまう結果よりも三日間ドラムで回し続けたほうが良い結果が出るということでも少しですが証明できそうな気がします。

有機溶剤が毛皮の脂を溶かし少しずつ気化させる時間を与えているともいえるからです。

毛皮は本当に難しい素材です。毛の美しさも皮の状態に大きく左右されるからです。

でも、そんなこと考えて作る職人はいません。世界中どこを探してもです。

 長澤祐一

クリーニング溶剤と毛皮クリーニングについて

今日は、クリーニング溶剤と毛皮クリーニングについてという話題です。

先日、あるサイトで毛皮クリーニングで、お客様の要望を聞きながら使う溶剤の種類を選ぶと記載がありました。

私のブログで書いていることと似たような記載もあったり、出来ないところは既存のパウダークリーニングに逃げていたりと、実際やっていないで書いていることが露骨にわかるようなサイトでした。

私は、通常のドライクリーニングは詳しくは解りません。

しかし、毛皮のことなら解りますので少し誤解があるので書いてみます。

用途に応じて、または要望に応じてという部分には理解ができません。どんな用途があるのか?溶剤を使い分けるほどの具体的な用途とは? それをお客様側から要望できるのか?

そんなことはありません。大半の毛皮業者も具体的に何十年も経った毛皮素材をみて、劣化の進行状態や毛の傷み具合を見抜けるひとはほとんどゼロに近いはずです。

お客様が溶剤を使い分けるための要望を具体的に提案することなどできません。

なぜ溶剤(有機溶剤)を使うかという意味は、毛皮の皮面や毛についた、または元々残留していた汚れや脂を溶かして、気化させるかオガに吸収させて取り除くかという目的です。

ドライクリーニングでは洗剤も一緒に入れると聞いたことがありますが、毛皮に洗剤は使えません。生地と違って洗いずらい素材です。

以前ロシアから仕入れたバイオクリーニング剤は洗剤ではありませんが、多少泡立ちはします。皮面に染みこむほど濡らすことはしませんが、毛の部分の半分以上は濡らして汚れを拭き取る感じで作業します。

私も、何度かやりましたが絶対的な結果は出ていません。

しかし、国内業者がメインにしているパウダークリーニングよりは良い気がします。

話戻しますが、溶剤の使い分けがあるとすれば、速乾性や油汚れなどを溶かすスピードのために使い分けがあるように感じます。

理由は簡単です。一つの作業を終えるのに、より短い時間で同じ効果が得られるからです。そうすれば、儲かるからです。

液体フロンのようなものも以前毛皮でも使ってましたが、今は使えません。

お客様の要望を聞いて溶剤を使い分けるというのは、一見正しいことを書いているように見えますが、自信があるならば、その詳細を逃げずに記載すべきだと思います。

今、私のところもホームページを作っていますが、それらしく、、、それっぽく、、、 やってはいけない気持ちのよい表現に、つい手を出したくなりますが、1を100に、表現だけで見せるなんてことはやりません。

そんなホームページを作ったら、このブログやオンラインショップで書いてきたことの信頼が総崩れします。

最後に問われるのは、書いていることがどこまで信頼してもらえるかです。

そのために多面的に記載もし、さらにそれに応えるだけの作業を提供しています。

生地のクリーニングで生地の特性を知らずに仕事をする人は少ないでしょうが、毛皮のクリーニングにおいても、適当に表面だけの知識でクリーニングが出来るほど甘い仕事ではないはずです。

せっかく、お客様の要望に応じて溶剤を使い分けると記載するならば、その内容まで踏み込むべきです。

深く突っ込んで記載しても、お客様にはわからないからという理由で記載しないというならば、お客様の要望に応じてなどと、まるでお客様が細かい部分まで知ってて要望を出し、それに対応して溶剤を使い分けるという記載はそもそもが違うだろう、、と思ってしまいます。

でも、こんな記載はネットのいたるところに見られます。

最後にタイトルに戻りますが、毛皮という曖昧な素材のクリーニングの難しさは、毛皮を作ることと同じくらい難しいと私は感じています。

その意味もあって、これだけたくさんのクリーニングの記事を書いています。

長澤

 

毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解

今日は、 『毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解』 というタイトルです。

このパショーネのブログでも、クリーニングや仕上げのことについてよく記載をしています。ひとつ誤解があるといけないので書いてみます。

私の毛皮を仕上げる技術は、自分で言うのもなんですが、かなり上手いほうです。

その理由は毛皮素材の本来の良さや作りによって毛皮のポテンシャルが上がることを知っているからです。

ただ、ひとつ誤解があるかもしれませんので書いておきます。

素材や作りが良くても、毛の癖や、汚れが付いていたり、毛皮の皮面が硬かったりすることで、本来の良さを出せていない毛皮があります。

その場合は、元の良さを引き出すことが出来れば驚くほど綺麗になります。

ただ、誤解があるかもしれませんのでお伝えいたしますが、パショーネ以外で、お買いになられた商品をパショーネでクリーニングをしたり仕上げをしても、もともと持っていたクォリティは発揮することが出来ますが、元のパフォーマンス以上にはなりません。

パショーネがやっているのは、あくまで元々持っている素材や作りの良さを引き出すだけなのです。どんなに頑張っても元のクォリティ以上にはなりません。ただ一般的に売られている商品のほとんどが、本来の力さえも表現されていないことが多く、その多くは仕上げる前よりは良くなりますが、パショーネの商品と同じようにはならないのが現実です。

チンチラなどのボリューム感も一般のチンチラの例えば半裁横段のマフラーの多くは、横段の接ぎ目の間に1cm幅くらいのレザーが入っています。

チンチラの1パーツの幅が一般的に例えば5cだとします。そこに1cのレザーがチンチラとチンチラの間に縫い込まれます。そうすることで、5パーツ接ぎ合せると、ざっくりですがレザーによって5c分長さが長くなります。

こうやって高額なチンチラの使用枚数を減らします。これはこれで良いのです。ただ、ひとつ言えるのは、当然ですが1本のマフラーを作っても材料コストが原皮一枚分減ります。

見た目を同じように見せて使用枚数を減らすという売り手側の都合のよい作りになります。

そして、当然ですがボリューム感も減ります。綿をどんなに入れても素材のボリューム感と同じにはなりません。

もちろんレザーをチンチラの間に入れない職人もいますが、一つ一つのパーツを綺麗にそろえることや、チンチラの白い腹を均一にいれることなど注意すべき点がたくさんあります。

世に出ている大半のチンチラが、これを正しく守っていません。そのことによって、本来、横段で綺麗にみえるはずのチンチラが上下の幅やボリューム感が違ったりしていて汚い作りになっています。

話を仕上げにもどしますが、前回の”価格の価値とは”のブログでも書きましたが、安いには安いなりの理由が必ず存在します。流通コストを省いたことで安くできたり、工賃の安い職人に出したり、中国で作ったり、レザーを入れて素材コストを下げたり、、、とたくさん理由はありますが、常に何がしかの理由が存在します。

最後にもう一度、元のテーマにもどりますが、どんなにパショーネが仕上げをしても、元の素材が良くなるわけではないのです。私たちがやることは、元の素材の魅力を最大限に引き出すことをしているだけです。仕上げ方でごまかすことは出来ません。元が良ければ当然ですが、その力が100%引き出されれば魅力的な毛皮に戻ります。

ただ、一般的に世に出ている商品の多くの割合で、正しい作りや仕上げがされていないために元の素材のクォリティ以下に見えるものが多くあり残念だといつも感じています。

長澤祐一

 

 

 

毛皮のご自宅保管での注意点

劣化に関する最新記事をアップ致しました。是非見てください。https://www.passione.co.jp/blog/%e6%af%9b%e7%9a%ae%e3%81%ae%e6%ad%a3%e3%81%97%e3%81%84%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e6%96%b9%e6%b3%95%e3%81%a8%e5%8a%a3%e5%8c%96%e3%81%ae%e6%84%8f%e5%91%b3/

今日は、そろそろクリーニングや保管の時期になってきましたので、一般の方が簡単に保管ができる方法や気を付けなければいけないこと、さらに一般の業者も気が付かないことなども含めて書いてみます、、、と実は五月くらいに書き始めたのですが、忙しくて、こんな時期になってしまいました。すみません。

でも、真夏になってますが、今からでも試してみる価値はあります。是非読んでみて、やれることだけでもやってみてください。やらないよりは絶対に毛皮にとって良いはずです。

業者さんがやってることは私は正確には知りませんが、想像はできます。

クリーニング後にどういった状態で保管するか、そして納品直前に何をするのかが問題なのですが、完璧な解決方法がないのが正直なところです。

一番良いのは、コート一点を何にも近づけずに温度の高くならない暗い場所で保管するのが一番です。しかし現実には保管を仕事としてやる場合には大量のコートを一か所でお預かりするわけですから、コート同士がほぼ、軽く接触状態になるのは普通のことです。

ご自宅の場合であれば、例えばクローゼットがあったとしても、毛皮のコート同士、または他の洋服とピッタリに接触してしまっていては、いろんなリスクが発生いたします。

まずは、クローゼットで例えば湿度や温度が調整できる環境であっても、クローゼットが空の状態であれば全体に温度や湿度管理がいきわたりますが、ものが入ってしまうと空調の対流が妨げられて湿気が溜まってしまう場所が発生します。

例えば、コートを向かって左向きにハンガーで掛けた場合には右袖が奥側になり右袖に湿気が溜まります。私が、過去にやったリフォームの中に、右袖だけが極端に劣化しているコートが三点ほどありました。すべてミンクです。ミンクは毛皮素材のなかでも特に強いほうの素材ですが、劣化していました。

この事象からもハンガーに掛けた方向とラックに入れる向きにもよりますが、どんなに環境を良くしたとしても、壁際だったりする端になる部分は湿気が溜まりやすく、空調設備があるクローゼットのようなスペースでも絶対に安心とは言えないということです。

解決方法としては、クローゼットの環境をよくするよりも、コートのかける向きを夏場の時期に最低一度は変えて、湿気が溜まった奥側にある袖の方を手前にしてあげて、新しい空気に触れさせて湿気を取ることをお勧めいたします。

それと、夏場のオフシーズン中に、何度かハンガーラックのようなものに間隔を開けてコートを一度裏返しにして 暗い場所に数日置いて、裏側に溜まった湿気を取り除くことをお勧めします。

これくらいやっていれば、そう簡単には皮の劣化はしません。一般的に、よくみるリフォーム品の極端な劣化は、超最悪の環境に長期継続して保管してしまったことによるものが多いと私は考えます。

よく、以前クリーニングに出して、その後何十年もしまったままだったというようなケースがありますが、たまたま保管した場所の状態が湿度や温度の高い場所に長期間保管したケースが多く、しかも着ないために、どうしても保管場所が奥の奥にいってしまい、環境としては一番最悪の場所になったことも原因のひとつです。

普通に扱えば毛皮はそんなに簡単には悪くなりません。それは、私の手持ちの在庫や仕掛り品在庫をみても、何十年も経った仕掛り品がありますが、劣化などしません。

たまにチンチラが劣化している場合がありますが、これは買った時からすでに劣化が始まっていたようなチンチラ原皮がありますが、それにしても、過去35年くらいの間で数枚のことです。

意外に怖いと私が想像するのは、メーカーや小売店のバックヤードに長期保管されてしまっているようなコートや小物は怖いと感じます。

その原因のひとつは、一か所に継続して長期保管をした場合には、どんなに空調があっても行き届かない場所がたくさんでますので、かなり危険だと感じます。

保管を業務としているところでも問題を抱えているはずです。ただ、現状の保管の方法しかすべがなく、クリーニングに出したものを保管する場合は特にそうですが、コートは完全に綺麗になったという前提がありますから、例えば不織布のようなコートカバーに入れて納品まで保管することになります。

しかし、洋服のように完全に汚れが落ちた訳ではありません。毛皮の皮についた虫やカビは一般のクリーニングでは落ちませんから、仮にいい状態のコートの隣にクリーニングを完了しているといっても、皮にダニやカビが付いたコートを密着状態で保管したら、当然ですが、隣にも匂いやカビ、虫が移るリスクは通常以上にあります。自宅保管よりリスクが高くなるのです。

燻蒸処理するという話も聞きますが、毛皮の一番怖い部分が裏地、さらには芯の奥にある皮の部分であり、そこに匂いやカビ、虫などがいるので、燻蒸がどこまで効果があるかは分かりません。仮に害虫や菌が死んだとしても匂いは残るような気もします。燻蒸ですべてのリスクがなくなるというのは無理があるかなと、私は感じます。

話戻しますが、保管をする際に不織布のカバーのようなもので保管し、他のコートと密着状態になれば、綺麗なほぼ新品の状態のコートに隣の古いコートから匂い、カビ、虫等が移る可能性があるのです。普通の洋服のように完全に汚れが落ちた状態でビニールカバーにかかったものが隣り合わせになるのは問題はありませんが、毛皮の場合、裏地が付いた状態での完璧なクリーニングはあり得ませんので、都度リスクが発生いたします。

クリーニングに出したはずが、逆に、保管や作業中のコート同士の接触によって匂いやカビが移る可能性があるという矛盾した問題がつきまといます。

私のところでも、この部分には一番神経を使います。

最初のご自宅での保管の話にもどしますが、上に書いたことを気を付けて頂けば、そう簡単に皮が劣化したりしません。劣化するまでには、そうとう無意識に酷い環境で保管しないと簡単に皮が劣化したりはしません。室内温度が超熱い場所やクローゼット、場合によっては桐箱なんかに入れっぱなしにした状態を何年も続けている場合です。

桐の箱が良いなんてよく言われますが、確かに虫よけにはなるのかもしれませんが、湿気を吸った毛皮を何年も入れっぱなしにしてはいけません。昔のストールを桐箱に入れてダメになったのを何度も見ています。

桐ダンスに入れて保管する呉服については私は分かりませんが、毛皮の皮は生き物のように湿気をすったり出したりしています。その湿気の逃げ道を無くしてしまった状態で長期保管などあり得ないのです。

毛皮で一番のリスクは皮にあります。毛は虫に食われたりもあるかもしれませんが、コート全体がダメになることはありません。皮が劣化したら、毛皮コートとしては価値が無くなります。

極端に心配する必要はないですが、せめて、上に私が書いたことを毎年守っていただければ自宅保管もありだと考えています。

とにかく大切にクローゼットでも洋服ダンスでも、奥の奥に何年もしまったままはやめてください。

私も、これだけ長い間、扱っていても明快にこれだというものが見つかりませんので、責任は持てませんが、上で書いたことをやらないよりはやった方が確実にコートの寿命を延ばすことは出来ます。

業者さんも、これが絶対だとは思ってないはずです。思ってるんだとしたら、知らないことが多すぎるのだろうなと推察できます。

昔、脱酸素剤を入れてビニールのパッケージで空気を抜いた状態で保管するものがありましたが、あれも問題が多いですね。だって脱酸素といっても、毛皮のコートから完全に湿気が取り除かれての脱酸素なら良いですが、ほとんどの場合、毛皮に湿気が含んだ状態での脱酸素です。しかも、毛も皮も脱酸素によって、本来あるべき毛質やコートの形が崩れてしまうわけですから、シーズンになって着ようとしても、その毛と皮の癖が取れるのに、おそらく一週間はかかります。自分もパッケージを一個だけ買って試しましたが、納得できるものではありませんでした。

ひとつ付け加えますが、最近染色をした毛皮をよく見かけます。これは染色をするためにクロム鞣しをしているので劣化はほとんどしません。

ただし、匂い、カビ、虫は付きます。劣化しないぶん、リスクは減りますが、匂いやカビも大問題です。残念ですが、一般のお客様のコートの20年くらい経ったものの大半はカビが生えています。匂いでわかります。

いろいろ書きましたが、それくらい、問題が多い毛皮のクリーニングや保管です。

上に書いたことを実践してもらえれば簡単にはカビも生えませんが、一度カビが生えてしまうと、裏地が付いたままのクリーニングではカビは二度と取れることはありません。

私のところで、クリーニングも保管も、扱い方が見える顧客のものしかやらないのは、状態の酷い毛皮を預かって、商品やお客様のお預かり品に問題が起きたら大変なことになるためです。

時々お問い合わせで、毛皮に情熱が感じられる場合にのみですが、お手伝いとしてクリーニングを受けることがありますが、その時にも慎重に作業をいたします。チンチラやセーブルのヤーン(編み込み)マフラー等のクリーニングも、おそらくですが、私のところでしかやれないと判断している素材や仕様のものは、お手伝いの意味でクリーニングを受けることがありますが、基本的にクリーニングは受けていません。リフォームとセットの場合は解くついでに徹底したクリーニングが出来るので、保管のリスクが減りますから、その場合はリフォームの中でクリーニングをやると言うことでお受けしております。

極力ですが、私は自宅保管をお勧めします。その理由は保管に出した方が、匂いやカビが移るリスクが大きいからです。

それと、一般的にはクリーニングをしてから保管ですが、これも微妙なのです。本来はクリーニングをした直後がシーズン初めなのが一番なのです。ドラムという機械で毛も起毛し皮も多少は柔らかくなっています。ところが、一般的には、そこから保管に入り、半年ちかく保管状態が続き、せっかく起毛してフワッとなった毛も潰れてしまいます。

私のところでは、クリーニングはやはり最初にやります。理由は汚れを早く落としたいからです。しかし、保管だしのときに、もう一度、硬くなりかけた皮や保管で潰れてしまった毛を起こすためにもドラムにかけます。

手間を考えるとドラムをかけずに、そのままお渡しが楽ですが、やはり一番良い状態でお渡しをしたいのでそうしています。

今日も長々と書きましたが、上に書いた何点かのポイントを押さえてもらえれば、自宅保管もありです。ただし、放りっぱなしはダメです。一旦放りっぱなしになると永遠に何もしなくなります。そして気が付いた時には、どうしようもない状態になってしまいます。

とにかく大事にしてもらえると作り手としても嬉しいです。

長澤祐一